第65話 高校野球

「お姉ちゃん、今日も送って」

 今から25年前、10才離れた弟のおねだり。

 16才の彼は野球部に入り毎日クタクタだった。

「練習きつくて自転車で帰る力がない」

 片道23キロの道のり。甘やかすお姉ちゃん。

「お姉ちゃん、今度チケット売りして」

 他校との定期試合のチケット売りをする。


 真っ黒のユニフォームを洗い、

 朝早くから栄養豊かなお弁当を作る母親。

 練習試合のために父親はマイクロバス運転。


 家族みんなで高校球児の弟を応援した。

 3年間で2度甲子園に出場する。(補欠です)

  弟の努力も喜びも涙も近くで見てきたデバネズミ。


「監督の判断なので……。」本心なのか?


 3年間、いや小学生、中学生からやってきた

 仲間と甲子園に行きたかったはずだ。

 レギュラー争い、毎日のトレーニング、

 合宿を楽しんだ仲間達と行きたかったはずだ。

 

 高校球児達と共に頑張った家族、友達

 学校の応援団、近所の人、OBの気持ちは?


 目の前の夢と将来の夢を天秤にかけ、

 判断を下した大人の考えを

 笑って納得出来るのは、今じゃない。


「あの時、お前がミスしたから負けたんだよ、

 今日はお前の奢りだからな」

 弟のように笑って話せるのはまだ先だ。


 夏の高校野球はもらい泣きする。

 

 今年はなぜかモヤッとしたデバネズミ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る