第53話 いっちょまえ

「お帰り、コメント返信したらご飯にするね」

「お母さん、いっちょまえに返信出来るんだ!」

 いっちょまえって、あなた、親に向かって

 いっちょまえって言った?――爆笑。

 

 30年前、ワープロに向かってカタカタ。

 家族が寝静まってもカタカタ。

 原稿用紙200枚印刷して右肩穴あけて紐で閉じる。

 徹夜でふらふらのまま郵便局へ向かう。

 アナログ投稿は体力勝負。結果待ちの間、

 次の作品カタカタして保存。孤独な闘い。


「フォロワーとか、フォローって何?」半年前質問。

 携帯電話もツイッターにも縁のないデバネズミ。

 娘の呆れ顔を背に赤いスイートーピーを歌う。

「フォローがついて行くんだね、了解」

 恐る恐るハートを押したり、栞マークをポチッ。

 誰が何を書いていたか混乱の中、自作投稿。


 応援コメントが来る。感想が届く。

 誰かに読んで貰って評価される時間の

 短さに戸惑うデバネズミ。1分というものもあり。


 便利な世の中ですわ。書く作業に孤独が伴わない。

 承認欲求満たされまくりのコミュニティに感謝。


 しかし、自分を追い詰めて、孤独と産みの苦しみを

 味わいながら書く喜びもアナログ人間には必要。

 

 バランスを保ちながら、書こう。

 いっちょまえの事を言うデバネズミ。

 

 

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