第40話 断乳

「もうワサビないよ。買っておいてね」

 娘がチューブ入りワサビの空容器を捨てる。

「早いっ、この前買ったばかりなのに」

 娘は大のワサビ好き。

 ワサビ好きになったのは断乳時だ。


「いたっあーい。噛まないで、お願い」

 母乳信仰の新米ママは授乳中大声をあげた。

 新生児は生きるために必死だ。

 吸っても出ないと噛みつく。

 乳首の皮が剥けてる。赤くなってる。

「これもこの子の為なの。がんばる!」

 みかねて夫が哺乳瓶と缶ミルクを購入。

「せめて半年は母乳で育てたいの」

 痛みに耐えながら、おっぱい、オッパイ。


 眠る儀式もおっぱいになってしまった娘。

 歯が生えた。噛まれると跡がつく。

 あろうことか、吸ってる乳首の反対を

 親指と人差し指でグリグリしてる。

 痛さ倍増。やめさせると大泣きする。

 せめて、乳首グリグリは勘弁してと

 ぬいぐるみのミッキーの鼻に替えてみる。

 バレた。ギャン泣き。近所迷惑だ。


 断乳の候補の採用 ワサビ登場

 ヒリヒリ乳首を避けて回りに塗る。

 かわいい小さい唇にワサビがつく。

「辛いでしょ?オッパイまずいね?」

 申し訳ないと心で謝り、断乳の成功を願う。


 一瞬、恍惚状態になる1才児。

 脳が刺激されたのかな?泣くかな?


 にしゃぁと笑い……また舐めた。

 ワサビの辛さにはまってしまったらしい。

 怖い!やめてぇ、その口で乳首っ

 チクビを吸わないでぇー。


 断乳失敗。よちよち歩きで冷蔵庫を指差す。

 ワサビの隠し場所を知っている。

 乳首噛み攻撃とグリグリ攻撃に加え

 ワサビ塗りという拷問授乳期にかわった。

 


 



 

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