二 発端
「――バっカ野郎ぉ~っ! な~にが働き方改革だあ~! な~にが高度プロフエッショナルだあ~っ!」
某ブラックなIT企業でSE(システム・エンジニア)をしている俺――
「あんな真っ黒会社、ウィルス仕込んで機密情報漏洩させてやる…う、うえっ……うう…気持ち悪ぃ……あすがにちいとばかし飲み過ぎたな……」
しかし、やはりヤケ酒というのは良い飲み方ではない。たとえ刹那の憂さ晴らしになったとしても、やがて酔いが醒めれば、その後に待っているのはなんら変わらぬ現実とひどい二日酔いばかりである。
「…うぃ~……とりあえずなんか飲んどくか……コンビニ、コンビニ……ん? 行くまでもなかったか?」
このままだと明日ヤバそうなので、二日酔いに効くドリンクでも飲んでおこうかと付近にコンビニを探してみたのだが、すると、ちょうど通りかかかった公園に置かれる白い自販機が視界の隅に映った。
「でも、自販機だとそういうのないかな……ウコン、ウコン……ん? なんだこれ?」
渡りに船と公園に寄り道し、夜の闇に光る自販機のディスプレイを物色する俺だったが、捜している商品は見つからなかった代わりに、見たこともない栄養ドリンクの瓶に目を奪われる。
それは「スーパー
「なんか、いかにも怪しげな代物だけど……ま、そんなに言うんなら試しに飲んでみるか……」
世の
「なになに……クロレラを超える新種の藻『スーパークロレラX』を大量配合……」
早速、購入して自販機の明かりでラベルを見ると、そんな説明書きが記されている。販売元は「ツブラヤ製薬」というとこらしい。
「やっぱちょっと青クサいけど確かに二日酔いに効きそうだな……んじゃ、いただきますと…」
キャップを開けた瞬間、ふわっと鼻を突く
だが……。
「ブゥゥゥゥゥゥーっ…!」
あまりのその苦さに、俺はクジラの潮吹きの如く、真緑の液体を夜空に向けて一気に噴き出した。
「うえっ…コホコホ……な、なんだこの苦さはっ!? こんなの、とても人の飲むもんじゃねえぞ! 何考えてんだ、この開発者は!?」
ただでさえ会社への不満と飲みにすぎによる不快感があるところへもってきて、そのあまりにも人間の味覚を度外視した開発コンセプトに、俺の中でこのドリンクに対する怒りがふつふつと湧き上がってきた。
「こんなもん、飲めるかぁーっ!」
その通勤の折に前を通る公園の裏は、街中を流れる「
殺人的な不味さを誇るその栄養ドリンクを入れた小瓶は、川沿いに設置されたフェンスを飛び越え、トプン…と微かな音を立てて黒い水面の底へ沈んで消える……。
無論、ゴミのポイ捨ては良くないことだが、まあ、酔っ払いゆえの過ちと御容赦願いたい。
「うえぇ…あまりの不味さに酔いも醒めたぜ……もしかして、こういう効果を狙ってんのか?」
そうして、また別の種類の気持ち悪さと引き換えに、結果的に酒が抜けて頭のスッキリした俺は、口内に残る苦みと青クサさを感じながら、再びとぼとぼと家に向かって歩き出した。
まさか、この時捨てたそのドリンクが後にとんでもない事態を引き起こすなどとは夢にも思わずに――。
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