倉庫の中の店

 店に入ってすぐ彼女の目に飛び込んできたのは、室内を埋め尽くすたくさんの調度品だった。室内に溢れた物たちのほとんどが埃をかぶっている。


 彼女が室内の奥の方に目をやると、二人の青年がいることに気づいた。一人はこちらに気づきもせずただ無言で、埃をかぶった物を布巾で拭いている。もう一人は、留花の存在に気付くと、つかつかとこちらに歩み寄ってきた。


「何の用? お客さん? 冷やかしなら御免だよ」


 客に対して、随分な言いようである。留花は、顔をしかめつつ言った。


「ちゃんとした、お客です」


 それを聞いて、高圧的な態度をとってきた青年も不機嫌そうに言った。


「じゃあ……、まあ、座れば?」


 そう言われて留花は、困惑する。この、埃にまみれた物が溢れた室内のどこに、座る場所があるというのだろう。


 すると、布巾で埃を拭っていた青年がゆっくりと歩み寄ってくる。そして無言で、留花の脇にある、荷物が大量に載っているテーブルを片付け始めた。片付ける、と言っても、隣のテーブルにどけているだけなのだが。それから、物がなくなったテーブルを布巾でさっと一拭きした後、奥から木製の椅子を一つ持ってきて、テーブルの前に静かに置いた。ここに座れ、ということらしい。


 無口な青年と高圧的な物言いの青年を、留花は見比べた。


 無口な青年は、すらりとした背に猫背。闇に溶け込んでしまいそうな黒髪だ。切れ長の瞳は鋭く、冷たい印象をもたらす美青年、といった出で立ちである。


 対して高圧的な物言いの青年は、平均的な身長である留花より少し高いくらいで、無口な青年と比べるとかなり開きがある。日光にあたると、透けてしまいそうな薄い茶髪が、軽い印象を与える。くりくりした瞳がかわいらしいが、先ほどの言動で


「口を開かなければ、とってもかわいいマスコットのような男の子」


の印象が彼女の中にうずまいていた。


 高圧的な物言いの青年は、無口な青年に乱暴に言った。


「おい、あかし。なんか食い物あるか?」


 すると、燈と呼ばれた無口な青年はこれまた無言で、奥のひと際物が溢れている場所に引っ込むと、すぐ戻ってきた。両手には、ワンカップと、少し割れたクッキーの小袋を抱えている。


 留花は、その二つがさも当たり前のように自分の前に置かれるのを見て、先ほどの口コミ情報が正しかったことを痛感した。

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