第18話 魔術

◆ハーデンバルト◆


マコトとやらは契約者の殺し合いを止めたいらしい。

ほとんど私たちと同じ意見と言って過言ではない。

が、私たちを利用し他の契約者を殺害、自分が比較的安全に勝ち残るという考えのもと私達を仲間にしようとしている可能性がある。

というか、その可能性が99.99%だ。

残念ながら残り0.01%にかけれる程、私はやさしさや勇気を持ち合わせてはいない。


――私がすべきなのは、人を信じることではなく悪魔を疑うことだ。


「リザ。 頼む」


「――開け」


マコトは『武装イスティント』を発現させた。

形状はハンドガン。

飛び道具のようだ。

どんな能力を持っているかわからない以上撃たれる前にしかける。


通常、魔術は、陣を描くことで魔界とのゲートを作り、生贄用意して魔力をこちら側へ移動させる。

そして、詠唱を行い魔力というエネルギーをこちらで作用するものに変換させるという過程が必要となる。

が、エクソシストが戦闘中に陣や生贄など毎度用意していられるわけがない。

なので、魔力をため込む性質を持つ「銀」で装備品を見繕い、戦いは詠唱だけで魔術を使用するのだ。

ちなみに、身体能力をあげるのは自分の中に魔力を入れるだけでよいので、詠唱はいらない。

契約者の場合は悪魔がゲートを作り人間を生贄と見立て、半永久的に魔力を供給し続ける。

下級の悪魔であれば供給量は少ないが、今儀式に参加する上位の悪魔は契約者の器の限界まで魔力を注げることだろう。


つまり、魔力の量に限界がある以上長期戦はこちらが不利。


――さて、そろそろ魔術を使っていこうか。


「『黒閃シュヴァルツ』」


刀身にまがまがしい黒色のオーラがまとわりついた。

距離を詰めるため足に魔力を集中させ地面を蹴ろうとする。

マコトはそれに合わせて引き金を引いた。


「『シルト』」


目の前に半透明の壁が現れ銃弾は壁にあたり止まった。


「なっ……!」


マコトととの距離を詰め、刀で突く。

刀の先端から黒のオーラは一直線に放出され、マコトを喰らおうとする。

真横に転がりこみ避けようとするが、『黒閃シュヴァルツ』は一度追尾をする魔術だ。

さぁどうでる?


◆小早川誠◆


なんだこの黒いの!


一度躱したが後ろから俺に迫ってきている。

大鷲イーグル』は何かに止められるし、エクソシストってのは案外厄介らしい。

と思っていたらじいさんは俺の目の前にいた。


「もらった」


後ろからは黒いの、前はじいさんの刀。

大鷲イーグル』の柄を持ち、銃身で思いっきり刀の横をぶっ叩く。

よしこれで刀の軌道がそれ――

じいさんの前蹴りがどてっぱらにねじ込まれていた。


「ガハッ!」


一瞬息ができなくなったが黒いのが当たる直前、間一髪横に飛びのくことができた。

息ができたのもつかの間、じいさんは態勢を崩した俺を蹴り上げ、首を刎ねようと刀で切りかかる。


――『大鷲イーグル』じゃ間に合わないな……


右腕を差し出した。

刀が右腕に食い込む。

が、片腕一本をただではもっていかせない。

腹に向け引き金を引く。

立て続けに三発。

じいさんはこちらの意図に気づき思い切り横へ飛ぶが、避けれたのは後半2発、1発目はよけきれていない。

脇腹に被弾していた。


「むっ……」


酷く痛む右腕。

切断される覚悟で向かったが、骨の手前までで刃は止まっていたようだ。


「クソ痛いなぁ……」


とはいえ、これで撒ける。


◆ロック◆


見ていて分かった。

あの契約者戦い慣れをしている。

最後のハーデンバルトさんの刃を止めた時、右腕に魔力を集中させていた。


エクソシストも契約者も自分の身に魔力を宿し、身体能力を上げているわけだが、その宿した魔力は基本、体中を回っている。

つまり全体に散らばっているわけだが、鍛錬次第によっては一点に魔力を集めることができる。

それが魔力の集中という技術だ。

例えば、腕に集め腕の硬度をあげるのもできるし、透明化した悪魔を視るためには目に魔力を集中させねばならない。

魔力の集中は対人戦つまり悪意を持った魔術使いとの戦闘に必要なスキルである。

勿論、俺はできるがマスターするのにまでに年単位の時間、ちょっと使えるようになるのだって2か月くらいはいるんじゃなかろうか。

しかし、あの契約者はまだ契約して1週間というところだろう。

多分、実践で覚えた口だ。

ハーデンバルトさんが言っていた。

実践、特に殺し合いなんかは腕を磨く一番の近道だ。 だから契約者には気をつけなばならない、と。


「なかなかやるねぇ」


「じいさんこそ」


「にしても、君の『武装イスティント』に腹を射貫かれた気がするんだがね」


腹を擦りながらハーデンバルトさんはそう言った。

確かに最初の一発目だけ、脇腹に当たっていたように見えた。


「さぁ。 もう一発当たればわかるんじゃないですかね?」


「ふむ。 謎は迷宮入りのようだ」


契約者は銃をまた構えた。

そして、


「……なんてね」


と契約者は背を向けて走り出した。

魔力で身体能力が上がっているぶん速い。

だが追えないわけではない。


黒閃シュヴァ――


ハーデンバルトさんが詠唱を止めた。


「どうしたんですか?」


「いやぁ。


ハーデンバルトさんは腹から血を流していた。


「……っ! 天の光をもって、『癒せハイリング』!」


傷を治す魔術を詠唱する。

この詠唱もハーデンバルトさんであれば『癒せ《ハイリング》』の部分だけで足りるのではないだろうか。

――詠唱は才能や、練度によって短くすることができる。


「すまないね。 逃がしてしまった」


「いえ、俺は今回見てるだけでしたし」


「で、どうだったかな」


「契約者との戦闘を見たのは初めてでしたが、速いですね。 紙一重とはいえハーデンバルトさんの攻撃を避けていました」


「ふむ。 しっかり目で追えてるようで安心した。 次は背中を任せるよ」


「えぇ。 全力を尽くします」


――にしても変な奴だった。

契約者なのに、悪魔に手を貸してるくせに、傷つく人を減らしたいなんて。

どうせ、人の善意に付け込んで他の契約者を減らそうとするのが目的だろう。

クズ野郎め。


◆小早川誠◆


「ばっかじゃなの?」


「酷いなぁ。 大丈夫だったじゃんか」


「そんな腕してよく言う」


怪我した腕をべしと叩かれた。


「いってぇ!」


「魔力の集中なんかいつ覚えたのかしらないけど、できてなかったら腕飛んでたわよ」


「結果オーライでしょ」


「はぁ…… バカやろーだわ。 ホント。 魔力を巡らせれば治癒力も高まるけど、さすがに飛んだ腕は生えてこないかんね」


二階堂につけられた、足のケガもなんだかんだ三日で治っていた。

今回の傷のほうが深いが、魔力の集中とやらができれば早く治るかもしれない。


魔力の集中とはいつも身体中の隅々まで均等に流している魔力を一か所に集中させる技らしい。

勿論、集中していないところを攻撃されれば致命傷は免れないだろうけど。

さっきは咄嗟にしていただけなので使いこなせるまではいかないが、うまくできれば便利だ。


「きーてんの?」


「えっ? あぁ聞いてるよ。 治癒力あげれば切れた腕が生えるって話でしょ。 便利だなぁ。 うまくすれば3本に増やせ――」


リザにまた腕を叩かれた。

さっきより強めだった。

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