第6話 邂逅
◆二階堂薫◆
正午。
東京都内。
ガッタゴトと揺れる電車の中を座っていた。
平日の昼間ということもあり、座れる余裕はあった。
俺の目的としては、契約者を殺すこと──後々聞いたが、降伏というのもありらしい──と彩香の仇の石動をこの手で殺すこと。
こうして、電車に乗っているのは目的は前者のためである。
サーニャには悪魔を半径1kmで感じ取れるレーダーのような力があるらしい。
石動は一般人である以上簡単に探し出すことができない。
ならば、餅は餅屋。
石動を捕まえるのは警察一旦委ねる。
この手で探すことから始めたいが、いかんせん手がかりがない。
警察が石動を捕まえた所を俺が契約者の力を使い証拠を残さずブチ殺す。
証拠を残さない方法は、俺の『
であれば、今は他の契約者を探すのが最善だろう。
それに、
石動を早々に殺すとこの儀式で勝てない可能性が大きくなる。
それほどまでに俺の頭の恨みが占める割合は大きい。
「……入った」
透明化しているサーニャが声を漏らした。
透明化している場合は契約者と、なんらかの魔術(?)を使っているものにしか声は聞こえないらしい。
「契約者か?」
隣に座っている奴がいなくて良かった。
俺の声は周りに聞こえるわけだから気をつけなければならない。
「えぇ。 ……逆の電車ね。 こちらに向かって高速で移動してくる」
ちっ。
すれ違う形か。
次の駅で降りて足を使って前の駅へ戻る。
相手が好戦的であるなら同じ方法を取るだろう。
「次で降りて仕掛ける」
「わかったわ」
◆暗子◆
私はカノの要望通り、彼女を連れ渋谷に訪れた。
「すっごーーーい!!!!! 人! いっぱい!!」
カノには今ジーンズにシャツという私のタンスの中から出してきた物を貸している。
チャラい人たちがいるとはいえ、あんなビキニみたいな恰好で歩くのは流石にまずい。
私の服を貸しているのだから、私もカノと似たような格好だ。
……ちなみに角は透明化しているらしい。
渋谷。
私が死んでも来ないようなところ。
人混みや、煩いのがあまり好きでない。
……それに、私の――私たちの服じゃ浮く。
「ほ、ほんとね。 平日なのに人がいっぱいだわ」
「暗子は来たことないの?」
「えぇ。 私は……人混みとか苦手だし……」
「そうなの?! ゴメンね! 無理言って」
「い、いや、大丈夫よ」
渋谷。
思ったより悪い気はしなかった。
カノと一緒だからだろうか。
「でも、ごめんなさい。 私の服じゃあ、渋谷じゃ浮くわよね。 あまり外にでないから」
「そう? 着やすくていいけどなぁ」
「……」
「それにさ!」
「?」
「似合わないなら似合う服買おーよ! いっぱいお店あるし! ね?」
カノは私の手を取って走り出した。
私の悪魔はイメージは散々だ。
――でもこれも悪くないかもしれないわ……。
まあ、問題は渋谷に私の財布が耐えきれるかということ。
◆リザ◆
思ったより早く入った。
「誠。 どーすんの?」
「次で降りて、一つ前の駅へ向かう」
契約して3日目というのにもう出会うとは。
相手もこの時間電車に乗っている。
十中八九、殺し合いに乗り気とみた。
誠曰く、人殺しをするような人間は退場させるとのことなので、間違いなく戦闘になる。
あとは、誠の『
◆小早川誠◆
俺は、考えていた。
俺がやりたいことを。
まず悪人に願いを叶えさせるわけにはいかない。
なら、俺が願いを叶える権利をもらうのが一番手っ取り早い。
しかし、中には俺と同じような人間がいるかもしれない。
だから、とりあえず会って話してみるのがベストではないだろうか?
中には改心してくれる人がでてくるかもしれない。
もし分かり合えなかったとき。
横暴な願いを持った人間。
自分の願いのため、躊躇いもなく人を殺そうとする人間。
勝ちのため第三者を傷つけるような人間。
まずは降伏させることを第一に考える。
しかし、降伏は簡単ではないだろう。
どうにもならない場合。
殺す。
これは『裁き』、『天誅』だ。
俺がして良いものじゃない。
悪人なら殺して良いのか?
正当な裁判で裁かれれば更生の余地があったのでは?
自分だって人殺しじゃないのか?
そうだ。
そうだろう。
俺はおかしい。
間違っている。
しかし、俺は覚悟を決めた。
取り返しのつかないことになる前に。
そう、なってからでは遅いのだ。
それほどまでにこの力は強大だ。
これから、向かう先。
今から30分もしないうちに契約者と会うだろう。
――これが杞憂で済めばいいなあ。
◆カノ◆
電車か?
高速で二人の契約者がレーダーに入ってきた。
他の悪魔の探知距離はせいぜい1~5kmってところ。
こちらには気づいていないだろう。
「か、カノ? どうかした?」
暗子にはもっと派手なのを着せてみたかったが、嫌がったので、初歩としてスカートとを履かせてみた。
リボンもつけさせた。
私は緑の髪というのが目立つのでこれ以上目立たないように気を使いつつ、フリフリの可愛い服に着替えた。
そして、ベンチでクレープを食べているところだが……
「ごめん。 暗子。 ちょっと場所変えよう」
今の暗子と他の契約者を会わせるのは不味い。
彼女は『
「も、もしかして、契約者……?」
「そゆこと。 ダイジョブ。 多分あっちは気づいてない。 距離を取ればなんとかやり過ごせるよ」
それに二人が入った位置はかなり近い。
派手に動いてる以上、あちらでドンパチやってくれることを願う。
暗子に合わせてはいけない。
今から帰るべきだ。
――だけど、まだ遊びたいなぁ。
正直。
悪魔というのは本能のまま、したいことをして生きている。
欲望には逆らいがたい。
「……カノ」
「何?」
「け、契約者から離れるほう……逆の方のお店に行きましょう」
「暗子?」
「だ、大丈夫なんでしょう? カノを信じるわ」
「暗子……」
「渋谷…… わ、私も初めて来たけれど。
──あ、案外楽しいわ……」
やっぱり契約したのは暗子であっていた。
暗子はやっぱりノリが良い!
◆二階堂 薫◆
某所公園。
小さな公園で、遊具はジャングルジム、ブランコ、鉄棒と砂場だけ。
昼間というのとなんとも絶妙な場所にある公園で俺のほかに人はいない。
まあ、悪魔はいるが。
「まあ、広い方がやりやすくて良いんじゃないかしら?」
「当たり前だ。 良い場所を見つけた」
「……そろそろね」
向かいの通りから歩いてくる人影。
年齢は俺と同じくらいか、俺より若干、若く見える。
そして、その横には──銀髪の悪魔とおぼしき少女が飛んでいた。
「よぉ。 契約者」
「……初めまして」
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