第4話 エクソシスト

◆ロック◆

俺はエクソシストである。


悪魔。

魔界という人間が踏み入れたことのない領域からやってくる怪物。

その悪魔を祓うのがエクソシストの仕事。

と、

映画やマンガなどではこのような仕事をするというのがエクソシストの一般的な認識ではないだろうか。


しかし、今を生きるエクソシストの仕事の大半は人間を相手とする。

『魔術』を悪用する人間のだ。

魔界には悪魔だけでなく未知のエネルギー『魔力』が存在する。

その魔力は魔方陣等を使うことで人間世界に移動させることができ、その魔力で科学では証明できない現象を引き起こす──それが魔術だ。

これを悪意ある人間が好き放題使うと大変なことになる。

よって魔術専門の警察が必要となり、それが今のエクソシストの主な仕事なのだ。


なぜ悪魔を祓う仕事が少ないのか。

そもそも悪魔をとはなんなのか。


まず、悪魔というのは人間世界に現れることができるが、悪魔単体では人間にさほどの干渉力を持たない。

その悪魔が人間にとって厄介なものになるのは以下の2つの方法をとったときだ。


人間の意識を乗っ取る憑依。


人間と契りを交わし、人間に力を与える契約。


人間にとって厄介なものになるとき、毎度人間を依り代とするのはなんとも皮肉なものだと思う。

ともかく、この2つの方法をとられた際エクソシストが仕事として悪魔を魔界に

追い返す際、実は魔術を用いる


魔を持って、魔を制す。

神の威光を持って悪魔を祓うわけではない。


というのも、人間から悪魔に干渉する方法は二つしかなく、

1つ目は物理的接触。

しかし、悪魔は透明化することができるため、嫌ならば物理的接触を阻止できる。

2つ目は魔術を使った魔力的干渉。

というわけで、魔術を用いて魔界へ


追い返す?

追い返すだけでは同じ悪魔がまたやって来るでは?


と疑問に思うかもしれないが、前提として悪魔は気分屋で、大半の悪魔は人間に興味があまりないらしい。

追い返されると面倒になるのか繰り返しやってくることはない。

そのうえ悪魔は死なない。

以上の点から悪魔は魔界にお帰りいただくのがベストだ。

これを祓うというかは個人の感覚に任せることにする。


結局、悪魔による被害など、変わり者の奴がちょっかいを掛ける程度のことなので1年間でも悪魔による被害件数は多くない。


これがエクソシストの実態だ。


とまあ、前置きが長くなったが、俺がこの度任命された任務はなんとの仕事。

すなわち、悪魔祓いである。


◆◆◆


俺は今、空港にいた。

任務でドイツを飛び立ち日本へ向かう。


「どうした? ロック君、緊張しているのかい?」


声をかけたのはハーデンバルトさんだ。

地毛の金髪をしっかりと決め、右目に片眼鏡、スーツが映えるガタイの良い体つき。

もう50を超えているにもかかわらずよく通るハキハキした声。

エクソシストの階級の最高位『白銀』はもう風格が違う。

階級は上から『白銀』『金』『銀』『鋼』とランク付けされていて、俺は『金』だ。

ランクとしては1つ違い。

実力としては次元が違う。


「いやぁ。 俺なんかが同行して良いのかなって……」


ハーデンバルトさんはガハハと笑った。


「君は自分の事を低く考えすぎだよ。 君はしっかり『金』級の実力はあるさ」


「そうですかねぇ……」


「でなければ、連れてこないさ」


唾を飲み込む。

今回の悪魔祓いは変わり者の悪魔がちょっかいをかけにくる程度ではなく、目的を持ち人間世界に現れる。

それに加え、悪魔の数は計6体、すべて強力な悪魔ときている。

とあれば、世界最高峰のエクソシストといっても過言ではない、ハーデンバルトさんが現場に駆り出される。


「それにしても人員をもっと割けないもんなんですか? これ」


その内容であるにも関わらず現場へ向かう人員は二人のみ。


「まあ、そうだね。 協会はケチだから仕方ないさ」


協会。

僕もハーデンバルトさんも所属する『エクソシスト協会』のことだ。

エクソシスト協会は魔術や魔界を研究する秘密組織『devil dark』──通称『dd』──の1部署である。

ちなみに世界のエクソシスト人口は300人程度らしい。


「ケチとは言っても、6体の悪魔の討伐に2人しか派遣しないって、ケチにも限度ってものがありませんか?」


「まあ、そう思うのも無理はないよ。 けどね、協会は協会なりに考えてるんだ」


「どういうことですか?」


「これは悪魔の王を決める儀式。 記録上、強力な悪魔が数体現れるが、積極的に人に被害を与えるわけじゃない。儀式の実行のみを目的としている。 だから、協会こちらとしてはあまり戦力を割きたくない。 しかし、相手は強力な悪魔な以上、派遣するなら…… 」


「最低限かつ最高の戦力の派遣ってことですか……」


「そういうことになるかな」


「正直そこまで戦力を渋るなら、放置でも良いのでは?」


「ロック君。 残念ながらこの儀式で死者がでているのも事実だ。 指を加えて見ているわけにもいかない」


ハーデンバルトさんの声が少し低くなった。

犠牲。

曰く、悪魔と契約した人間は他の契約者を殺すことで願いが叶うらしい。

こうして悪魔は王になるため、人間は願いを叶えるため強力し、人を殺すわけだ。


狂っている。


そこまでして、人を殺してまで願いを叶えてなんの意味がある?

悪魔も王なんて自分達で決めれば良いだろう。

なぜ人を巻き込む。

不合理だ。


「すみません。 それは止めなくてはいけない」


「…… やはり君を連れてきて良かった」


ハーデンバルトさんは少し笑っていた。


「まあ、君を連れてきたのは今後のためさ。 私はこれが最後の大仕事になるだろう。 戦線を引く身として次世代を担うべき君にを積んでほしかった」


「経験……ですか」


経験か。

確かに悪魔討伐は稀で、特に契約者との戦闘はもっと稀だ。

契約者は『武装イスティント』という武器を使う。

その武器は契約者となる人間の『想い』に依存するらしい。


曰く

悪魔は本能のままに生きている。

人間は理性をもって生きている。


つまり悪魔は欲望のまましたいことをする生き物で、人間は理性をもって欲望などの想いを閉じ込めて生きていると。

その『想い』を開放する、「本能イスティントのままに」ということが『武装イスティント』の由来らしい。


「まあ、基本は私が闘う、そして

──君だけは絶対に生きて帰す。

それだけは約束しよう」


「……何をおっしゃるんですか」


「?」


「ハーデンバルトさん、必ずあなたも一緒にですよ」


「それは頼もしいかぎりだね」


「えぇ。 それに、僕があなたの奥さん、ユーリアさんに殺されてしまいますから」


「ユーリアは怖いからねぇ。あればっかりは『白銀』になっても祓えそうもない」








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