かき出さなければ終わらない夜に

紬木もの

第1話 棚ぼたない

 彼が長年の夢を叶えたその時、私は高く積まれた書類を前に頭を抱えていた。


「おめでとう」と入力してメールを送る。「おめでとう私は何をしているのかしら


 ──どうしてこうなったんだろう。


 こんなに自明な問いはないのだけど。


 私は夢をあきらめて──正確には夢を一旦棚に上げて、就職活動に苦慮した。そして御社が弊社になり、夢は忙しさの中で時間という埃を被って、棚に上げられたまんま。


 いつでも下ろせると思っていた夢は、白く霞んで、今はもう触りたくもない。


 だけどいつか夢が叶うその日が、やってくる。それは運命で決まっていることで、まだやってきていないけれど、いつかくる。


 ただやっと分かってきた。


 私にその日はやってこない。私はこの物語の主人公ではなかった。


 ただちょっと周りほど勉強が苦手なわけではなかっただけ。

 これまでは、周りよりできなくなければよかっただけで、これからは、夢から先は、周りよりできなければならない。


 それなりの学力でそれなりの大学へ行き、それなりの企業で働き、それなりの給与で生きて、それなりに幸せ。


 でも、それなりで死んでしまいたくはないのです、神様。

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