あの娘はサンタクロース
勝利だギューちゃん
第1話 女の子
12月に入ると、町はクリスマスムード一色になる。
ツリーが置かれ、飾り付けがされる。
サンタの格好をした人が、子供たちに風船やビラを配る。
毎年恒例の行事だ。
子供の頃は、サンタの存在を信じていた。
しかし、いつのころからか、それは想像の世界の住人としる。
大人が子供に与えた、唯一の夢なのかもしれない。
空を見上げると、白い物が落ちてくる。
「雪か・・・」
この地方にしては、珍しい。
おまけに、暖冬だ・・・
(奇跡か・・・)
レストランは、既にカップルや家族連れで満席だ。
独り者の俺には、関係ないか・・・
「いたたたた」
ふと、女の子の声が耳に入った。
(気のせいか・・・)
そう思い、通り過ぎようとした。
「すいません。どなたかいませんか?」
間違いない、女の子の声がする。
路地裏から聞えてくるようだ・・・
声を頼りに言ってみると、そこにはサンタの格好をした女の子がいた。
俺は思わず声をかけた。
「どうしました?」
「すいません、転んじゃって・・・」
「立てますか?」
「すいません・・・1人じゃ無理みたいで、起こしてくれますか?」
起こすと言う事は、女の子の手を握るということ・・・
俺にとっては、大問題だ・・・
でも・・・
「わかりました」
俺は手を差し伸べて女の子を助け起こした。
女の子は、服についた、汚れをはらった。
「大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」
女の子の膝を見ると、血が出ていた。
「血が出てますよ。大丈夫ですか?」
「本当だ・・・いたたた」
「待ってて下さい。今、手当しますんで」
「そんな・・・いいですよ」
「いえ、バイキンでも、入ったら大変です」
俺は、鞄から絆創膏を取り出し、女の子の膝にはった。
完全な応急処置だが、何もないよりはいいだろう。
「すいません。このくらいしか出来なくて」
「いいえ、助かりました。ありがとうございます」
女の子は、ふかぶかとお辞儀をする。
「大変ですね。お仕事」
「ええ、この季節は・・・でも、子供たちが待ってますので」
「待ってますって、本当のサンタみたいですね」
俺は、微笑ましくなった。
「みたいじゃなくて、本当のサンタなんです」
「えっ」
「だから、私は本当のサンタクロースなんです」
女の子の告白に、俺は驚いた。
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