「シャーペンと消しゴムの赤ちゃんは?」 「A .ケシカスです」

雪純初

第1話 シャーペンと消しゴム

 教室の窓から日差しが空気中の埃を白っぽく小さく写し、照らしながら机の端に注がれる。注がれる場所には二つのチャックを咥えた一つの黒い革製かわせいの物が鎮座していた。

 それは小学生から高校生、大学生、その後の社会人として身分を手に入れたとしても恐らくは誰でも一つは持っているであろう物だった。


 ────筆箱ふでばこだ。


 シャーペンや消しゴム、赤ペン、ノリ、ハサミ、シャー芯、マーカーペン、ものさしなどといった文房具ぶんぼうぐを収納するための用具入れだ。人間が勉学に多種多様な文房具を使う為に作られた、人間の世界よりは遥かに小さくて、材質も多種多様で、中の空間も筆箱一つで一つでまるっきり違った文房具たちにとっての箱庭はこにわ

 日差しで熱を帯びる筆箱はその内部の温度も上げていく。人間の世界で言うところのサウナ状態に近いだろう。

 けれども、筆箱の中の文房具たちにとっては気温の格差は重要ではない。例え、砂漠の上でも極寒の地でも宇宙空間を漂っていても文房具たちには大して気にとどめることではないのだ。


 文房具たちにとっての重要なこと、人間ならば自身の命とも言えるとても大切なこと。

 文房具たち────“私たち”がちゃんと使えるかどうか、これに尽きるだろう。



 文房具の小さな箱庭──筆箱の中の私〈消しゴム〉は頭上で白っぽく写し出される埃の中でふと思ったことがある。

 紫色の消しゴムカバーに人間の世界での言語の一つの英語で書かれた『white!』を上に仰向けの体勢で私〈消しゴム〉は教室の天井に、


 ……知っている空だ。


 と、呟いた。

 私たち文房具にとっては日差しの先、窓から見える『青空』より見慣れた『石の空』を見上げる。無機質無感情の代わり映えのない固いだけの空を何をするわけでもなく視界の端に青空を写して凝視していた。


 ……なんて味気ない空だろう。


 私〈消しゴム〉はそんなことを思いながらすぐ隣の表情豊かな青空と比べた。

 ここの空は変わらないのに、どうしてあっちの空は変わるんだろう、と私〈消しゴム〉は身動きのとれない中で疑問に感じた。

 教室の中は誰もかもが筆箱から文房具を取り出して白い紙と黒板を交互に睨み合っている。私〈消しゴム〉の所有者の女の子もたまにシャーペンのノックボタンを額につついて顔を苦悶の表情にゆがめる。


 ……この子はあの空が日常なんだろうな。


 黒髪がよく似合う持ち主に視線を送る。

 私たち〈文房具ぶんぼうぐ〉が見上げる空とは違う、どこまでも行けそうな程に広くて、なんだが心の中で泣いてしまいそうな程に遠い、表情豊かな空が当たり前なんだ。

 そのことが、どうして今更悲しく感じるのかは私〈消しゴム〉にも分からなかった。今の自分在り方を疑問に思う機会などとうの昔に過ぎたものだと思っていたけど、私〈消しゴム〉の中にはまだ残っていたらしい。


 ……いいな。


 人間の為に作られた私たち〈文房具〉が本来持つことが意味をなさいことだと知っていても一度底から浮上したこの気持ちを消し去ることは難しい。〈消しゴム〉だけど。

 筆箱の中は平和へいわだ。

 決して戦争などという無意味な行為はしないし、殺人やテロなんてのも勿論ありはしない平和な世界だ。人間の世界より遥かに平和に違いない。

 差別に似た、新作モデルの文房具や高級品の金の装飾を持つ文房具にはいささかアタリが強いのがたまに傷だが。

 戦争のない平和な世界のなかで、私たち〈文房具〉は持ち主に使われる日々を送り、そして壊れたり新しい文房具を取り替えて捨てられたりの繰り返しだ。


 ……けど、人間がうらやましい。


 私〈消しゴム〉をしまっている筆箱の中で捨てられることや新品に買い替えられることを疑問も反発も悲しいと思ったことは不思議とない。

 だって──、


 ……そういう“モノ”だと私たち〈文房具〉は生まれた時から知識として知っているから。


 だから恐怖もない。人間への怒りも持つ意味がないことを知っていているから。

 けど……けど、せめて、この代わり映えのない無表情な空の下で『ケシカスを作る』だけの日常の中で、こんな馬鹿なことを考える私〈消しゴム〉を分かってくれる『理解者りかいしゃ』を望むのは、イケないことなのかな……?



 ────アッ!!



 机が強く、ドン、とガタガタと脚を床に左右に押し付けるように揺らいだ。

 持ち主の女の子の急な大声に深く沈んでいた思考が現実に戻される。寝起きの人間のように思考が周りに追いつかず、あわわわわ、と酷く慌てた様子をみせる。


 ……なに!?なんなの!?


 身体と心の準備が追いつかず、内心慌てながらも持ち主を何事かといぶかしむ。

 見ると持ち主はの持つシャー芯が所々黒文字で埋まった白い紙の上を、コロコロ、と円弧を描いてページとページの間の溝にポツンと納まっていた。

 折れたのか、と私〈消しゴム〉は思ったが持ち主はポッキリったシャー芯を顔を引きつらせ、乾いた呼吸の後、


「最後のシャーしんが折れた!」


 と、小声ながらも焦りのある声色でノックボタンを額に押し付けて杖代わりにして、大きなため息をこぼした。

 ああ、シャー芯折れたんだ。

 これもまた見慣れた光景だが、今回はどうやら換えのシャー芯もなく、慎重に使っていたけれど運悪くその最後のシャー芯もシャーペンの先端ガイドパイプに入れる際にポッキリ逝ってしまったらしい。

 その後に続く小言で、確認してなかった、周りの同級生は友達とは言えない、先生に言うのも恥ずかしい、と愚痴ぐちっていた。


 ……馬鹿ばかな子。


 ……私〈消しゴム〉もか。

 気分も相まって冷ややかな視線を持ち主に送る。

 持ち主はう〜んと唸りながら長い黒髪を掻きながら、あ、と不意に素っ頓狂な声を出した。バックの中をあまり音をたてずにゴソゴソと何かを弄っていると持ち主の手には袋に入った新品のシャーペンが握られていた。


 ……新品の……また新しい文房具が入ってくるんだ。


 だとしたら、筆箱の中の誰かは撤去される可能性があるなと他人事のように推測していると持ち主が、


「良かった買っといて!」


 喜びの声を上げて袋を開けて、シャーペンを取り出した。


 ……あ。


 取り出した如何にも安物のシャーペンの姿を見て私〈消しゴム〉は持ち主と同じく素っ頓狂な声を漏らして、次は窓の向こう側の空を見た。


 ……青空だ。


 運がいいのか悪いのか、シャーペンの配色は私〈消しゴム〉が先程まで羨ましく眺めていた青より若干薄い──『空色そらいろ』だった。


 カチカチ、とノックボタンを押してシャー芯が出るのを確認すると所有者は再びノートに向かい合った。右手に持たれた空色のシャーペンからふと声が降り注いだ。


 こんにちは。


 ────と。



 ~~



 私〈しゴム〉

 :こんにちは。


 空色そらいろシャーペン

 :どうも。今回からこちらに来ましたシャーペンです。安物だから壊れやすいし、すぐ捨てられるかもですが、暫くの間、よろしくお願いします。


 私〈消しゴム〉

 :君はいきなりネガティブなことを言うんだね。自殺志願物かな?


 空色シャーペン

 :実際その通りだろ。その可能性は決して低くないからな。俺はただ事実を言っているだけだ。それをネガティブな発言と捉えるかはそちらに任せる。


 ″なんだコイツ″、というのが私にとっての彼の第一印象だった。妙にキザったらしい言い回しで、一言一言がとても簡素なものに感じて、どこか達観しているようにも思える。

 どれが気に食わなかったのかは自分でも分からないが、


 私〈消しゴム〉

 :君はただの文房具だよ。


 空色シャーペン

 :知っている。それがどうした?


 私〈消しゴム〉

 :私も私たちも君も、皆、人間に上手く使われるだけの文房具だよ。この女の子ならほとんど毎日教室で使われるだけの文房具。


 どうにかだけは不意に使ってしまわないように注意を払いながら彼に向かって言葉を繋いでいく。

 さっきまでの思い詰めがまだ残っているせいか、若干気がたっていることを確認するとそれを押し止めて冷静さを保つ。


 空色シャーペン

 :だから知ってる。なんでそんなに確認事項を取るみたいに言うんだ?俺が新品でも流石にそんな常識は知ってるし、わざわざ再確認する必要もない。なんだ、貴女あなたも俺と同じでピカピカの新品なのか?


 どうしてコイツはこんなにも煽り上手な喋りをするのか、それともあおっているのか?

 まあ、それはどうでもいい。私はだだの文房具なんだから。窓から机の上の筆箱を照らされていたのが突如として影をつくる。

 傍に置いてあった消しゴムが伸びる影に捕まり、そしてノートを境界線きょうかいせんに白と黒の領域が出来上がった。


 私〈消しゴム〉

 :……君、面白いこと言うね。私はこれでも2年間この筆箱にいる歴代の消しゴムよりかは長命だよ?消しゴムは失くしたり、新しいの買ったり、玩具おもちゃにされたりと短命だからね。ああ、それと君みたいな安物のシャーペンとかは消しゴム以下の短命だね。


 皮肉を踏まえたからかい半分嫌味半分の言い草に流石に彼もなにか反応するだろうと、私はそう思ったが彼はただ「そうだな」とやはりどこか達観している言い草だった。

 その達観たっかんしている姿勢が私は嫌いだった。


 私〈消しゴム〉

 :あ・の・ね。私たちはいつか必ず捨てられるの。買い替えだったり、失くされたり、消しゴムだったら子供が遊んで細切れに千切っちゃってもう使えなくなったり!

 

 ボールペンだったら中のインクが底を尽きたら入れ替えもせずに安物の別のボールペンを買うし!!

 

 ノリだったら底をつく前にベタベタするなり全然くっつかない!って勝手に言って勝手に捨てて!!!

 

 ものさしに関しては可哀想だよね?中学生や高校生にもなると筆箱に入れることさえなくなっていって分度器付きのものさしは遊びで半分に割るし!!!!

 

 シャーペンだって今持っているより高いシャーペンを持ったり買ったりしたらすぐに“せっかくだからこっちを使おう!”ってヘラヘラ笑いながら使わないシャーペンに唾を吐きかけるじゃん!!!!!


 他にも他にも────!!!!!!」


 他にも──、の後に続いたのは喉から今まで詰まっていたものを必死に絞り出すかのように人間には感じられないだろう踏みつけられた物をギュッと握しめた怒号だった。

 なみだなど文房具は流さない。しかし消し頭(消しゴムの消す部分)の黒い粉状のケシカスが盛り上がった斜面を、ぽろぽろ、と消しゴムは“何か”を流していた。

 そして、彼女は決定的な言わないでおこうとしていた言葉をついに言った。



 私たち……ただのじゃない!!



 ──文房具ぶんぼうぐ人間にんげんのようになみだを流さない。


 ──なら、消しゴムが流したのは一体、なんだったのだろうか。


 彼は暫しの沈黙ちんもくを置いた。

 所有者の女の子に現在進行形で授業のノート写しての為に、ササササ、とノートとシャーペンが擦れ合うほんの少し心地よい音を奏でている。

 彼は何を考えているのだろう。

 理解不能?ただの文房具のくせに人間みたいなことを言ってる?それとも馬鹿な消しゴムだって思っているのかな?

 こんなにも喋ったのは初めてのことだった。だって一体誰にこんな“人間みたいな”疑問を話せるの。分かってくれないに決まってる。

 ううん。多分、疑問にも思ったこともないいんだよね、きっと。

 暗い気持ちを影の中に溶かしながら、私は店に今か今かと手に取られるのを待っている販売品の消しゴムの気持ちにすっかりなっていた。

 そして────、


 空色シャーペン

 :……なるほど。つまり、貴女は『』しているのか。


 ────え?


 空色シャーペン

 :貴女が言っているのは確かにだ。どうしようもないほどに、変えられない俺たち文房具の運命だろう……


 声が出なかった。

 彼が、空色シャーペンが何を言っているのかが聞こえているのに、聞こえているはずあなのに、頭に入ってこなかった。

 雲が太陽の前を次第に風に乗って漕ぎ出し始めて、太陽の日が放射線状に地上に、教室の窓から机の上全体に降り注いだ。


 私〈消しゴム〉

 :私が『後悔こうかい』している?何を言っているのかな?


 ぎこちない震えた声で太陽の光の中で所有者に使用されている彼にそう尋ねた。


 空色シャーペン

 :ん、そうだろう?貴女が先程言っていたのは全て事実だ。人間じゃない俺たち文房具は短命で、自分の意思で自分の結末を決められない。貴女はそのことを後悔しているじゃないのか?


 私〈消しゴム〉

 :そ、そんなことは…………


 空色シャーペン

 :貴女は恐らく目の前で、仲間の文房具が貴女が言った通りの結末を迎えた瞬間をずっと見てきたんじゃないのか?


 私〈消しゴム〉

 :…………


 ──そうだ。

 私は見てきた。ずっとこの2年間。

 当たり前に、自然に、それが正しいことかのように仲間の文房具が消えていくのを嫌というほど見てきた。

 その中で、私はどこかで彼の言うように『後悔』をしていたのかもしれない。

 変えられない結末──じゃなくて、その結末を人間と同じで『』だと納得していたことに、だ。


 私〈消しゴム〉

 :……そうなのかもしれないね。けど、しょうがないじゃない!後悔して、どうして?って疑問に思うのは可笑しいことなの?ううん違う。私たち〈文房具〉はそんなのは分かってるけど、理解してるけど、完全に納得出来るわけないじゃない!!


 空色シャーペン

 :……今の自分の在り方がきらいか?


 私〈消しゴム〉

 :うん。きらいだよ。こんなの……文房具なんかいらないよ。ずっと同じ無表情は空ばっかり見て、私だってあの青空の下に行きたいよ!私たちに出来ることって、人間の誰でも出来ることじゃない!!それに──、



 こんな馬鹿げたことを理解りかいしてくれる文房具なんて、誰もいないじゃない。



 空色シャーペンは彼女の言っていることが全てを理解できているわけじゃない。

 言っている“意味いみ”は分かる。

 ──が、どうして疑問視するのかは、どうしてその結果に至ったのかはやはり推し量れるものではなかった。

 彼女は忘れているかもしれないが、空色シャーペンは今日袋から開けられたばかりの新品だ。つまり、人間で言うところの赤ん坊といったところだ。

 そんな彼に短命の消しゴムが過ごした2年間の想いを最初から最後まで理解して、尚且つ自分の意見を言え、とは出来るはずもないのだ。結局は彼も〈文房具〉。

 彼女が告げた、“そんなことも思わない”ただの文房具の一つに過ぎないのだろう。


 ──しかし。


 しかし、生まれたばかりか、それとも最初の話し手が消しゴムだったからだろうか、空色シャーペンは消しゴムに一言告げた。


 空色シャーペン

 :貴女はきっと正しい。


 私〈消しゴム〉

 :え?


 空色シャーペン

 :俺は誰かに使われるのは初めてだから文房具の世界のことを兎や角言えないが、それでも貴女の言っていることが、『間違いじゃない』ことだけは分かる。不思議とそう……思えるんだ、俺は。だから────、


 だから────、


 空色シャーペン

 :俺も貴女の言っていることを理解りかいできるように頑張ってみるよ。


 私〈消しゴム〉

 :────あ……


 私の考えは馬鹿なもので、必要も意味も理由もまるっきりなくて、ただの独り言。そう思って、そう考えて、そう納得していた。

 その中でもやはり誰かとこの気持ちを共有したい、そんな些細な望みが消しゴムの私にもあったのだ。

 結果けっかは──まあ、結末は変わらず、納得も出来ず、疑問を解決出来ず、望んでいた『理解者』は現れず、無表情は石の空は相変わらずのままで、特に代わり映えはない。

 ──けど、理解しようとしてくれる文房具は現れてくれた。


 空色シャーペン

 :それと、貴女は文房具が出来ることは人間にも出来る、と言った。──が、俺はそうは思わない。


 私〈消しゴム〉

 :どうして?


 空色シャーペン

 :人間は凄い身体能力を持っていて、自分の意思で行動出来て、俺たちには想像も出来ない新たな文房具を創り出している。でも、それは人間には出来ないからだろ?


 私〈消しゴム〉

 :あっ


 そこで私は文房具が作られた意味を思い出した。それは単純に“人間には出来ないからだ”、ということに。

 湧き上がった感情が恥ずかしみに支配されていく。なに言ってるの私!?

 彼は「ふっ」と軽く笑った。


 空色シャーペン

 :きっと単純なことなんだと思う。人間には出来ないから俺たち〈文房具〉は生まれたんだ。だから、俺たちはそのことを誇っていいんじゃないか、って。


 私〈消しゴム〉

 :うん……そうかもしれないね。


 空色シャーペン

 :その証拠にほら──


 彼が私にそう促した瞬間に強烈きょうれつは浮遊感を覚えた。私は気付いた、消すんだ、って。

 想像通り、消しゴムの腹を持って、先程まで彼で書いていたノートに普段しない大きなミスがあって、その為に私は、ゴシゴシ、といつもより強く長く使用されていた。

 そして残ったのは、大きなケシカス。


 空色シャーペン

 :人間にはこんな大きなケシカスなんて作れないだろ?


 私〈消しゴム〉

 :あはははは!!!そ、そうだね~!!


 笑った。

 久しぶりに心から笑った。

 確かにこんな大きなケシカスは、人間には無理だ。そのことがどうしてかとても可笑しく感じた。

 ああ、これは無理だ。


 こんな大きなケシカス──私と彼でつくった赤ちゃんは笑わず、動きもしないけど、私たち〈シャーペンと消しゴム〉から産まれたことは間違いないのだ。

 加えて、今回が初めての『共同作業きょうどうさぎょう』。


 私〈消しゴム〉

 :小さなこと、だったんだ。


 文房具の世界は人間と比べると遥かに小さい世界だ。自由に行動出来ないけど、その分小さいなことで笑うことが出来る。

 小さなことで私たちは、自分の在り方を再確認出来る。

 私の身体も小さいしね。


 私〈消しゴム〉

 :もっと贅沢ぜいたくを言うなら感謝は……されてみたいよね。


 空色シャーペン

 :そうだな。難しいだろうが。


 二つの文房具は互いの顔を見て笑い合う。

 二つの文房具は互いの顔を見つめて、


「私の名前は『消しゴム』。よろしくね」


「ああ。俺の名前は『シャーペン』だ。こちらこそ末永すえながくよろしく」


 それと同時にチャイムが学校内に響き渡ったのを聞いた。



 ~~



「はぁー疲れた。今回は予備で昼間に購買で買っといてよかった。じゃなかったら、折れたシャー芯で書くところだった……」


 消しゴムとシャーペンの持ち主は机にうつ伏せになっていた。シャー芯が尽きるという事態に陥り、先生に言うのも、隣の友達でもない人にシャー芯を恵んでもらうのも恥ずかしかったので、予備の空色のシャーペンがあったことに胸を撫で下ろしていた。


「オーイ!文代ふみよ早くしないと体育の時間に間に合わないよ!」


「ま、マジで!わ、わかった!片付けたら行くから先に行ってて!!」


「わかったー!」


 さて、と一息つくと各々各自、体操服に着替えに行って静かになった教室の中で、文代は机の上のノートをしまい、消しゴムとシャーペンをしまおうとして指を止めた。

 ついさっきの授業をふと思い浮かべて、なんとなく、本当になんとなく、



「今日はありがと。助かったよ」



 そう、言わなければいけない気がした。


「あ!やばい、急がないとー!」


 慌ただしく教室を後にした、文代の机の上に置きっぱなしの消しゴムとシャーペンは気のせいか、笑ったように見えた。


 コロコロとシャーペンが転がり、消しゴムの方へと向かって──ピタ、とくっついた。


































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「シャーペンと消しゴムの赤ちゃんは?」 「A .ケシカスです」 雪純初 @oogundam

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