季節はずれの白狐
116
6月30日
昨日見た夢
Ⅰ 黄昏
目が覚めたら、そこは神社の境内だった。僕のよく見知った、この町の鎮守
今日は、夏祭り・・・だろうか。人々の楽しそうな声、足音、笛や太鼓の音・・・
そうか。僕は今日、ここに遊びに来ていたんだ。今日は会えると思って。
・・・でも、やっぱり今日も会えなかった。君はここにいるとずっと信じていたのに。残念だなぁ。今日君に会えると思って、僕は施設に入っていた頃のこと、思い出していたのに。
あの頃は、ホントにいろいろ有った。一度、僕が施設から脱走したとき、君が追いかけてきて、「一緒に帰ろう?誰もキミのコト、悪くなんて思ってないよ。」って言って僕を助けてくれたよね?あの時何があったのか、思い出そうとすると、どうも頭が痛むんだ。どうしてもその部分だけ出てこない。
―なんか、あの一件のあとからさ、僕は君のことが・・・―
「・・・好きになってしまったんだ。」
朦朧とした意識の中、僕はそう呟いていた。
「なんだ、夢か・・・」
20XX.06.30.5.31.07
Ⅱ 森羅万象
人も物も、時間も方向も、何も無い世界にいた。
あるのは、自分の体と意識と気持ちだけ。あとは何も無い。
一体オレはここにいたるまで何をしていて、どうしてこんなことになったのか、全く見当もつかない。
ただ一つ、どこからか音が聞こえる。辺りを見回すも、音の正体も、流れてくる方向もわからない。この方向だ、と思ってその方向に耳を澄ますと、どうしてもまた別の方向から聞こえてくるのだ。
―突然、目の前の世界が一変した―
再びあたりを見渡すと、どうやらオレは、崩れ落ちた建物のがれきの中に倒れていたようだ。
爆弾でも落とされたのか、 所々で火が上がっている。この地には、元から何も建っていなかったのか、思ってしまうほど何も無い。陽は山の端に懸かって、すでにあたりも空気も薄くなっている。
一体オレはここにいたるまで何をしていて、どうしてこんなことになったのか、全く見当もつかない。
体が思うように動かない。手足を伸ばそうとすれば腱を引きちぎられるように痛むし、これまでのことを思い出そうとすると、まるでそこだけ思い出せないようにされているのか、頭がズキズキする。
もはや建物で無くなった建築材料から火が上がり始めた。どうやらこの世界も、そしてオレも、もう最後のようだ。
何だ、たった16年しか生きていないのに、もう人生が終わってしまうのか。・・・思えばオレの人生なんて、変化の乏しい、案外つまらないものだったと思う。もっと何か、特別なものでなくても、例えばオレがこの世に生まれ、生きた意味を残せたらな・・・
・・・いや、もう考えるのはやめにしよう。
多分そんなこと今考えたって、今この場から動けるわけじゃないし、仮に動けたとしても周りがこんなじゃ何もできない。幸い生きているから頭で何かを思い描けたり、口で何かを言うことは出来るけど、それは今の状況下では机上の空論でしかないのだから・・・。
・・・一体オレは、どのくらい無駄な頭を使っていたのだろう、目の前に突如現われた少年に気付いていなかった。
背格好がオレと同じくらいか。見たカンジ人間のようだが・・・目の奥が無機質な色をしている。つまりコイツはオレと良く似た感じのロボット?であり人間ではない、と言ったところか。
しかし、なんなんだ?彼は何をしにここに来たのだろう。決まっている、オレに何かをしにきたようだ。でも、何で何も言わない?何もせずにただ立っている?何で何だ・・・と言った自問自答を脳内で繰り広げていると、突然、彼が口を開いた。
「おーい、まだ生きてる?」
ん?いきなりしゃべりだしたと思ったら何だ?鼻っから謎な質問吹っかけてきたよ・・・
「生きてる・・・けど。」
「ああ、よかった。まだ生きていたのか。君に伝えないといけないことがある。僕は・・・まあクロとでも名乗っておこうか。
僕は、とある闇組織によって操られている・・・そのトップとしてね。僕を操っているのが、キミの■■■である■■■なんだけど・・・
その彼らは、ある能力を求めている。神移りの
これを・・・まあ言ってしまえば君がその一つを所持しているようで、彼らはこれを狙っていた。でも君が、それに気付かずにいた為にこの世界は乗っ取られてしまった。この能力で彼らはこの世界を支配しようと考えているみたいだ。
この世界はもう・・・誰もいなくなってもう少しで終わってしまうんだ。だから今さら君や僕が動いたところで、何も意味は無い。
・・・だけどね。君の持つ力は、彼らの計画を阻止することもできるんだ。だから・・・だから周期1のこの世界を巻き戻して、もう一回この世界に立って・・・
そうすれば彼らの動きを抑えられるんだ。」
意識がだんだん遠のいていく中、オレは、突然饒舌になった彼の事を見つめていた。彼の話に質問しようにも脳がもう鈍り始めて何も思いつかない。
「もう僕はよくないプログラムを入れられているから、彼らを止めることはできない。
だからこの仕事は君に託す。お願いだ、彼らを止めてくれ。」
必死に訴えかける彼の目には、ロボット?とは到底思えない強い光が宿っていた。
「こうなる前の世界に戻ることは簡単だ。この世界は一つではない。実は今のような状態になっている世界と、そうでない世界が必ず存在する・・・らしい。
今回は特別に、組織の構成員の一人の持つ、違う世界に記憶を飛ばす能力を適用する。・・・この先の未来は、君に託したよ。どうか・・・世界を救って・・・」
その言葉とともに周りの物が吹き飛び、そして・・・オレの記憶も飛んだ・・・
・・・現実の世界へ。
「何だ、夢じゃねえか・・・」
20XX.06.30.4.28.36
・・・だが、実は夢ではなく、これは今から始まる物語の前座のようなものであったのだ。
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