エネルヒア・デル・ソル

ヤツハシ

Chapter 1.

追憶 (1)

 情け容赦なく照りつける八月の太陽が、スタジアム全体をジリジリと焼いていた。

 近づいてみれば、選手の汗が湯気となって蒸発する様がはっきりと確認できる。

 その汗は暑さのためでもあったけれど、勝利を前にしたチームのはやる気持ちと、敗北を前にしたチームの焦燥感が多分に含まれていた。

 アディショナルタイムの表示があってから、どれくらいの時が経っただろう。時間の感覚はとっくに失ってしまっていたが、いずれにせよもう後がない。

 けれどあとワンチャンス、あいつらが何とかして作ってくれることは、分かっていた、気がする。


 タッチライン際、サイドチェンジのボールをコヤタがつま先で納める。瞬間、スタンドのヨネコウ……米島高校応援団がぐわっと盛り上がる。


「小山ぁー!よくやったー!」


「中、走ってきてるぞ!」


「頼む!合わせてくれー!」


 もちろんベンチの仲間たちも、最後まで走り続けることを止めないピッチ上のメンバーも、ヨネコウに関わる競技場内の全員が、思い思いの言葉を叫び、祈っていた。

 そしてその視線は、コヤタの努力を誰よりも見てきて、誰よりもいいクロスを送ってくれるということを知っていた俺のもとに注がれた。

 ゴールに向かって走る。走る。走れ。絶対に遅れるな。遅れてしまえば、コヤタの頑張りも、先輩たちのディフェンスも、全部が水の泡だ。俺の仕事は点を取ってチームを勝たせることなんだ。その仕事ができなかったら、俺がここにいる意味なんて何もないんだから―――


 ピッチサイドを駆け上がったコヤタが、右足の甲、若干インサイド寄りのキックでボールを宙へ送る。こういうシチュエーションだって何回も練習してきた。最初の頃はもちろんうまくいかなかったけれど、今なら目を瞑っていても合わせられる。でも慢心は禁物だ。全力で走りながらも、最後の瞬間まで目を切らない。


 集中、平常心。


 視界の端に、ゴールキーパーの白いグローブが見える。その右手の先のスペースが俺には確かに見えた。ここだ。ここに叩き込めば手が届くはずはない。

 眼前に迫るボール。あとはヘディングだけだ。胸の鼓動が速くなる。なんだろう。約25mを全力で駆けてきた息苦しさとは違う。何かが喉に詰まったようだ。口の中、酸味を帯びた何かがこみ上げる。

 しかしその違和感もこの一瞬の前には余計なものだ。寸時胸に去来した躊躇いを捨て、ゴール手前、俺は急停止する。下半身に力を入れ、垂直に飛び上がろうとして……


 八月の太陽の追憶は鈍く何かがちぎれた音を最後に、その映像が暗転する。

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