狂った世界は林檎に溺れ

あんぶれら

第1話 隠された涙

今日も研究。明日も研究。


午前は講義で、午後は実験。


代わり映えのない大学2年目の日々。


「こんにちは、桜樹さん。」

「あ…こんにちは、東宮先輩。」

昼時、未來はよく法学部在学の先輩、翔に会う。

学部は違えどカフェテリアは同じ場所を使うのだ。

「今日のニュース見た?ほら…この前山で死んだ奇病患者の症状が政府未確認のものだったって話。」

カレーを食べながら翔は未來に話を振った。一方の未來はうどんをつつきながら「はて…知らないですね。私、実験が忙しくてニュースとか見れてないので…。」と返答した。

「そっか。あ、もうこんな時間だ。じゃあそろそろ僕行くね。じゃあね。」

そう言って翔は未來のもとを去っていった。

「……はあ。」

翔が見えなくなったのを確認してから未來はため息をついた。

はっきり言えば、未來は翔が苦手だった。胸を抑えて、緊張の糸を解す。

(あと…どれくらい隠せばいいんだろう。)

未來の目に涙が溜まる。

そう。未來は奇病患者だった。

ニュースを見ないのは自分が奇病患者であると認めたくないから。

医者に行かないのは蔑みにあうのが怖いから。


小中学と虐めにあい、嫌われるのが怖かった未來は、なかなか奇病に対する行動をし辛かった。

翔が未來に話したように、日々政府は新しい奇病を見つけ、それを公に公表するページやニュースでのコーナーを作っている。

最も、その奇病を調査する政府の人は医者にあたる人間なのだが。

未來の奇病はまだ発表されていない奇病、つまり前例がない未確認のものだった。

今まで見つけられた新たな奇病はほとんどが死体から採取されていた。

故に、未來が前例の無い奇病だと知られたら何されるか大体の想像はつく。

(…きっと…殺されてしまう。)


生物学部の未來は毎日のように実験台のマウスを解剖する。

そのマウスに自分がなるなんて恐ろしすぎて考えたくもなかった。


学食を食べ終わると未來は午後の実験が行われるゼミ室に向かった。

まだ誰もいなくて、静まり返ったゼミ室にはクーラーの音だけが響いていた。


始まりは…未來が大学1年生の頃だった。

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