ショータイムのはじまり
羽間慧
第1話 楽屋
私は今日、エンターテイメント集団エアポケットに入団してから二年という節目を迎える。また、同じ職場の人と付き合って一年と切りが良い日でもある。
眼光が鋭い見た目から、最初は声を掛けるだけで緊張した。だが、気さくで打ち解けやすいことが分かってからは笑顔になることが増えてきた。
恋に落ちたのは去年の打ち上げ。ビールを飲んで口髭をつけた彼に、私が鏡を見せたことがきっかけだった。
ほんとだ。漫画みたいになってる。
鏡を見て無邪気に笑う姿に癒され、帰りがけに勇気を出して交際を頼んだのだった。
そんなことを考えていると、思わず頬が緩んだらしい。私と仲のいい双子の姉妹が駆け寄ってきた。
双子というだけあって、外見を見ないと誰が話しているのか分からないほど、口調も声の高さも大差がない。ちなみに、ポニーテイルをしているのが姉の薫で、肩までの位置で切りそろえているのが妹の霞だ。
薫は一足先に私の元に来た。ポニーテイルが元気よく跳ねる。
「美紗!」
薫が大きく息を吸い込んで私の名を呼ぶと、霞は嬉しそうに話し掛ける。
「顔、赤いよ」
「そうなの?」
暖房が熱くさせたのだろうか。
私が首を傾げていると薫は頷いた。
「うん。赤い」
「かなり赤いね」
「こらこら。もうじき開演だぞ。少しはしゃきっとせんか」
ベテランの先輩が呆れて口を挟むことはいつものことで、このやりとりのおかげで仲間の緊張がほぐれていくことも定番になっていた。
「はい」
「はーい」
「はーい」
すみませんという意味を込めて私が返事をすると、双子もそれに続いた。先輩は溜息をつくと苦笑いを浮かべる。
「まったく。入団したての頃と全然変わっていないな」
「さすがに二年では変わりませんよ」
そう言ったのは団長の相澤透だ。警官の衣装に身を包んでいるため、一段と凜々しさが増している。団員からの尊敬を一身に浴びる彼こそ、私の恋人だった。
透は楽屋を見渡した。どの目も団長からの激励の言葉を待ち望んでいる。
にやりと笑うと、透はよく響く声で士気を上げた。
「今日も精一杯頑張りましょう!」
「はい!」
皆は笑顔で返事をした。
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