一章十二話 雑談って楽しいですね? ね?(威圧)

 一つの火を囲んで肉を焼く。


 未だにセイラは来ていないから焼いたままで皿に移して、また焼いてを繰り返しているのだけど。


 やっぱり文明っていうものはいいものだよね。たかだか網があるだけで肉を一口大にして焼けるんだもん。


 漫画とかでよくある小・中学生のキャンプファイヤーとかの学校行事はなかったし、すこしだけドキドキするな。


 BBQをしたのだって友達の親が誘ってくれたことで、学校の規則から考えれば違反行為だったしね。


 不純異性愛行動だとか、人としての倫理に反しているとか大人の考えで縛り付ける文化は学生としては辛いものがあったかな。淡い青春とか夢のまた夢だったからなぁ。


 あっ、セイラだ。露骨に目を逸らしてくる……すっごく悲しい……。


 そういえばあまり時間が経っていないというのに髪型は元通りだ。前の時の方がいいとは言えないよなぁ。……でも絶対にストレートで流した方が可愛いと思う。


「それじゃあ、セイラ様も来たから飯にするか」


 鍋かな? 少し動かせばタプタプ音がするし間違ってはいないよね?


「それってなんですか?」

「ああ、これはウルフの骨とキャヘツを入れたスープだ。俺達の街では主流な旅の食事だな」

「……そうは言ってもこれが普通ではないわよ。鍋や野菜などを運べる馬車かスキルを持つ人がいないといけないわ」


 セイラが喋った!


 じゃなくて、このキャヘツはキャベツだよな。それで運べる人はセイラか空間魔法を付与した馬車か。


 多分、お金を持っていないと普通は無理よってことかな。本当に多分だけど……。


「ああ、セイラ様の言う通りだ。これらはセイラ様がいるからこそ出来るだけで、俺達ならこの黒パンと乾燥肉を持っていくので精一杯さ」

「……黒パンって硬いんですよね?」

「慣れていないと食えたもんじゃないな。ジルは問題なく食べれるようだが、俺は水で流し込んでいるし。セイラ様にはスープなしでは食べさせられない代物だ」


 そこはラノベとかと同じなのね。

 一度食べてみたいとは思っていたけどどこまで硬いのか試してみたいなぁ。僕、歯には自信があります!


 どちらにせよ、食事が始まれば貰えばいい。今は我慢だ、うん。


「セイラ様はミドのご飯をいつも美味しいと言っていますから、ギドさんもミッチェルさんも美味しく食べれるはずです」

「へぇ、それは楽しみです」

「ギドさん以上に美味しい食事を作れるのでしょうか。……少し粗野に見えるのに……」


 小声で呟いているけど、ステータス高かったら聞こえるぞ、ミッチェル。


 ほら、セイラとジルは頭を縦に振っているしミドは少し悲しげな目をしているじゃないか。


「いや、僕のいた地域では粗野に見える人をワイルドだね、と言って普通の時との差でキュンと来る人も多いんだよ。ミッチェル、ミドさんはミドさんでモテているんだから」

「……モテていないから傷つきはするが、まあ、嬉しくないわけではないな。ワイルドか、それを売りにしてみるのも手かな」

「……粗野なワイルド、ミド……プッ」


 あの、ジル? 辞めてあげて! ミドの体力はもうゼロよ! あーあ、セイラも笑っているし。


 ほら、みんな気付こう? ミド、地面にのの字を書き始めているよ?


「それよりも、ご飯を頂こうかしら。ミドはそのうち復活するでしょうから」

「……そうですね」


 さらばミド! 覚えている限りは覚えているよ。……いや、死んだわけではないけどね?


 ミドも大事だけどお腹が減っているから。優先順位を考えれば、お腹>>>ミドだから仕方ないよね。


「ギドさんも……大概ですわ……」

「容赦のなさと天然さがギドさんの売りですから」

「……確かにこれはそそられるものがありますね」


 えっと、キコエテマスヨ……。

 それにミッチェルの言葉を聞いて頭を頷かせる理由もよく分からないなぁ。僕馬鹿だからわかんなぁい。


「さて、食事を始めましょうか。ミド、早く復帰しなさい! セイラ様の前ですよ!」


 痛そう。中学生の時に女子に背中を叩かれることがしょっちゅうあったけどさ、ステータスとかがある世界では男女関係なく背中への一撃はキツいだろ……。


 剣士なら「背中に傷は付けぬ! やれ!」とか言って腹を出しそうだなぁ。腹パンとか痛そう。


 あっ、ゾンビみたいに立ち上がったぞ。頑張れ! 負けるな! ミド!


「ミドも席についたことですし、頂きましょうか」

「そうですね。いただきます」


 小声でもいいから故郷の食前の言葉を呟く。

 元の世界が恋しいからではない。最低限のマナーを守るためにも僕はこれを必要だと思っただけだ。……言う必要性もないんだけどね。


 久しぶりの大人数での食事はとても楽しかった。あれだね、小中学生の給食を思い出すよ。高校でもやるべきだと思うね。生徒が自由に机を揃えてだと、仲間はずれは絶対に現れるんだから。別に僕が一人だったわけではないんだからね!


「それってなんですか?」

「……アツシ様と同じことばをいうのですわね……」

「……これは師匠が言っていた食前の挨拶みたいなものです。ということはこれは異世界の文化かも知れませんね」


 異世界の文化ですよ。

 ただ危なかったなぁ。こんなことでバレたらどんな処置を施されるか分かったもんじゃない。勇者召喚以外で異世界人がこの世界に来るはずがないんだから。


【いくつか該当しない召喚方法もございますが、その中でもマスターは特殊ですね】


 ふーん、まあ、僕はどうして転移したか、誰がやったかなんてなんにも分からないしなぁ。知りたくもないけど。


 詳しいことは聖とかと一緒の時に教えて。

 知識として持っておく分には悪くないと思うんだ。


【了解しました。理解しやすいように説明出来るように考えておきます】


 そこまで構えなくてもいいけど……。


「まさかですけどギドさんは勇者かしら? ディザスター帝国が勇者召喚をした話は聞いていないですわ……」

「……僕は勇者じゃないですよ。勇者だったら誰であろうと守るために立ち上がりますし、僕にそんな気概も勇気もないです」


 自分が幸せなら一番さ。


 他人なんて二の次だ。とある文豪が言っていた。見返りを求めるならば自分が傷つく覚悟を持てと。その通りだと思うから僕は他人に構ってなどいられない。


 とは言っても体が勝手に動いて助けに入ることも多いんだよなぁ。本当に僕って変わっているよ。


「それならそれでいいですわ。ただし、その挨拶は極力控えた方がいいですわね」

「……了解しました、セイラ様」

「セイラでいいですわ。ギドさんに助けてもらったからには、貴族や平民は関係ないですわ」

「……いえ、それは出来ないです」

「……セイラ、で、いいですわ! それともさっきのことを」

「よろしくお願いします、セイラ!」


 危ねぇ! さっきのことは絶対に露見させてはいけない! 言う前に封じなければ!


「……よろしくですわ、ギド」


 ついに呼び捨てかぁ。

 まあ、片方が呼び捨てよりも両方とも呼び捨ての方が仲がいい感じがしていいよね。


「ほれ、セイラ様との話はそれくらいにして飯を食おうぜ。悪いが俺は腹が減っているんだ」

「あっ、お願いします」

「おう、後、俺のことも呼び捨てでいい。セイラ様を呼び捨て出来る人が俺にさん付けだと示しがつかないしな」


 優しいな。変な方向に脱線しそうだったのがミドの一言で元に戻っている。少し馬鹿なのかな、と思った僕を殴りたいよ……。


 まずは硬い黒パンを一齧りしてみる。

 うん、歯が痛いなぁ。噛みちぎったのはいいけど水分なしじゃ確かに難しいわ。あれ? なんで変なものを見る目で見られているんだ?


「ギド……よくそんな硬いもんを噛みちぎれたな。……ステータスの差が原因か?」

「これは……すごいですね。私以外の人族で黒パンを噛みちぎれる人なんていませんでしたよ……?」


 いや、そういうわけでないと思うんだけどなぁ。現にジルという黒パンを噛みちぎれる人がいるなら、僕みたいに食べられてもおかしくないと思うし。というか、僕は人族じゃないし。


 ほら! ミッチェルだってきちんと食べられているじゃん!


「私は鼠人族の血が入っていますから歯に関しては強いんですよ。ですが純人族でこんなことが出来る人なんて見たことありません」

「いやー、僕がいるってことはいるんですよ。きっと」


 無理やり頷くしかないですよね……とほほ。

 次からは気を付けて食事をしよう。


「そういえばミッチェルも上手く食べることが出来ているけどどうやってるの?」

「私の元いた場所では黒パンが三つ、それが食事でしたからね。口の中で溢れる唾液を絡めて出来る限り柔らかくするんです」


 あっ、なんか聞いちゃいけなかったことみたい。……本当にすいませんでした。




 ◇◇◇




「それで僕達はどこで寝ればいいでしょうか?」


 美味しい食事も終わりセイラにそう聞いてみた。

 そもそもお客様と呼ぶあたり、雑な扱いはしないと思うんだけどね。だからどうするのか気になる。


「お二人とも馬車の中でお休みください。ミッチェル様がいらっしゃった場所があったはずですわ」

「いいんですか……?」

「ギド、あなたと私の仲ですわ。気にしてはいけないですわ」


 あの……目が怖いです……。

 心当たりがあるだけにどんな表情をすればいいか分からないな……。十中八九、さっきの裸の件だろうしね。


 セイラに「ありがとう」と返してからお辞儀をする。少しだけ微笑んだかと思うとセイラは馬車に戻って行った。


「さてと、部屋に行かせてもらおうか」

「そうですね。それではお先に失礼します」


 そうそう、後は片付けをして、って、あれ? なんで僕、引きづられているの!? ちょっと! 誰か助けて!


「可哀想に……片付けは任せておけ」


 ミド! サムズアップしないで助けてよ!


「あー、ご飯美味しいですぅ」


 ジル? 食事よりもおかしな状況になっていますよ!


「少しだけお話があるだけです」


 そうして僕は部屋へと連れ込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る