明日美チームside 突然の別れ
「此処には一体もヤツがいないね〜」
わたしは辺りをキョロキョロ見渡しながら独り言のように零す。
「「「「そうだな…。」」」」
わたしの隣で4人が答える、勿論その顔に笑みはない。
わたしが小学校の中学年までは明るい子だったのに…。
一体過去に何があったのか詳しく尋ねたいけれど答えてくれる訳ないだろうな。
それに、4彼ら危なっかしい所があるから本当に心配である。
わたしが避難所で藤宮と木下から嫌がらせを受けたときも、わたしがナイフおじさん達の人質にされた時の彼らなんて特に危なかった。
お願いだから命を、自分のことを大事にして、借りにもわたしの親友なのだからと言ってあげたいけれど流石に両親の前だし、それ以前に恥ずかしいので言えない。
そんな事を考えながら歩いていく事数百メートル、工事現場に差し掛かった時のこと。
悲劇は突然起こったのである。
突然工事現場の束ねられた鉄パイプが落下してきて、わたし達を庇ったお父さんとお母さんがそれに巻き込まれて下敷きになってしまったのだ…。
ガラガラ……。
けたたましい音をたてながら落下してくる鉄パイプの束。
どうしよう…このままじゃ、わたしも4人も下敷きになってしまう。
目を瞑って最期を悟ったその時。
「明日美…!!…裕太君…一翔君…義経君…季長君…!!危ない!!」
お母さんの必死な叫びが耳に入ってくる。
ドンッ…。お母さんがわたしと裕太を、お父さんが一翔と義経と季長を思い切り突き飛ばす。
突き飛ばされたわたし達は訳もわからず地面に尻餅をついた。
ガラガラ…ガッシャン…!!
けたたましい轟音をたてて鉄パイプの束が落下する。
お父さんとお母さんは逃げる間もなく鉄パイプの束の下敷きになってしまった。
「お母さん…!!お父さん…!!」
わたしは叫びながら両親の元に駆け寄り鉄パイプの束を退かそうとする。
だが、女の力じゃ無理らしく、幾ら引っ張ってもビクともしない。
すかさず4人も鉄パイプの束を退かそうとしてくれるが、重さ300キロを有に超すであろう鉄パイプの束は彼らの力を以ってもビクともしなかったのである。
「クソッ…どうすれば…。」
わたしの隣で裕太が悔しそうな声を上げる、助けたくても助けられない、そんな絶望を明日美と4人はこれでもかというくらいに感じていた。
「お願い…あなた達は…行って…わたし達には…構わないで…。」
お母さんが苦しそうな声でわたし達訴えかける。
「でも…そんな事したら、お父さんもお母さんも…!!」
「「「「ですが…!!」」」」
その場を一向に離れようとしない明日美と4人。
例えどんな理由があったとしても愛する家族を置いていくだなんてとても出来やしない。
それに、明日美の両親にはたくさん良くしてもらった上に、まるで実の息子のように可愛がってもらったから。
だから明日美だけじゃなく4人にとっても二人は大事な人なのだ。
大事な人を置いて行けれるわけ無い。
そしたらお母さんが血塗れの手を伸ばしてきてわたしの頬に弱々しく触れる。
「明日美…愛してる…だからもう…行って…お願い…早く行って…。」
お母さんの必死な願いには逆らう事が許されないみたいだ。
だけれど、お母さん達のもとを絶対に離れたくない。
「裕太君…一翔君…義経君…季長君…娘を…明日美を頼む…よ。」
お父さんが苦しそうながらも必死な口調で、形相で4人に縋る。
必死な形相で言われたらもう従うしかない。
「「「「はい…必ず!!」」」」
4人はしっかりとした口調で答える、だが、しっかりとした口調に反して4人の表情は何処か悲しかった。
「イヤだよ!!お父さん!!お母さん!!」
わたしが両親の元から離れられないでいるとわたしの首元と腰元に誰かの手が周り、身体が中を浮く。
そしてわたしと両親の距離は段々と遠ざかっていった。
どうやら裕太がわたしを抱きかかえているらしい。
両親との別れがあまりに唐突過ぎて涙すら出てこない。
今のは夢だったのではないか?と、そう思いたい気持ちで一杯だ。
だが、わたし達の側にはお父さんもお母さんも居ない。
やっぱり夢ではなく現実なのだと現状を突きつけられ、途端に涙が溢れ出してくる。
だが、わたしの身体は自分で思っている以上に疲れているらしく泣くことすらままならない程。
抱きかかえられているわたしは段々と眠たくなっていた。
(お父さん…お母さん…。)
両親の事を思いながらわたしは裕太の腕の中で眠りについた。
「おーい明日美…」
「「明日美殿…。」」
「明日美ちゃん…。」
聞き慣れた声が上から降り注いでわたしは薄っすらと目を開く。
わたしの目に飛び込んできたのは4人の綺麗な顔だけ。
「此処は何処…?。」
わたしは眠い目を擦りながら辺りをキョロキョロと見回す。どうやら小高い所に来ているらしい。
「展望台だよ。」
わたしの隣で一翔がそう答えた。
そうだ…確か此処は小学校の頃、よく遠足で来ていたっけ。
確か夜になると神奈川の綺麗な夜景が見えるとかで人気のスポットだ。
今となっては荒んだ街の景色が見えるのみで、かつての頃の美しさとは対照的で見る影もなくなっている。
「明日美…。」
「「明日美殿…。」」
「明日美ちゃん…。」
珍しく4人の方からわたしに話しかけてくる。なんだろうと思って彼らの方を向いてみると、4人はなんだか酷く悲しそうな顔をしていた。
「本当にごめん…。」
「ごめんね、明日美ちゃん…。」
いきなり裕太と一翔に謝られ、正直わたしはどうしたらいいのか分からない。
「お前の親、助けられなかったから。謝って済むような事ではないって分かってるよ。だけど…だけど…。」
「本当にごめんね…。僕が非力なばかりにこんな事になってしまって…。」
今にも泣き出してしまいそうな二人の表情に胸がギュッと締め付けられるような苦しさを感じる。
「裕太にかず兄は悪くないよ…。」
なんて言葉を掛けてあげれば良いのか分からないからこんな安っぽい言葉しか掛けてあげられない。
「「すまぬ…。」」
義経と季長が悲痛な表情でわたしにそう一言。わたしはなんて言えば良いのか分からず言葉に詰まっている。
「我が非力なばかりに明日美殿の母上と父上を救うことが出来なかった…。」
「謝罪して済むことではない…責任は全て某にある。」
二人はそう言い終わらないうちに突然着物の襟を思い切り寛げた。忽ちにして胸元から腹部までが露わになる。
「え…ちょっと…。」
わたしが困惑していると二人は腰刀を抜いて自分の色の白いお腹に突き立てようとした。
「おい待てよ!!」
すかさず裕太が義経を一翔が季長の手を全力で押さえつけた。
「「離さぬか!!」」
二人が裕太と一翔の手を全力で振りほどこうとする。
「離せ、一翔…。こんな事になったからにはもう生きる事など出来ん!」
「裕太、頼むからその手を離せ!」
今にも自害してしまいそうな義経と季長。あなたのせいじゃないのに…。と思うと同時に怒りの感情が沸々と心の底から湧き上がってくる。
「ちょっと、何してるの、馬鹿!!」
わたしは思わずそう叫んで二人の頬を思いっきりひっぱたいていた。
思わず腰刀を落として痛そうに頬を擦る二人。彼らの白い頬にわたしの赤い手形がベッタリと張り付いている。
おまけに唇の端も切れて赤い鮮血が滲んでいた。
「裕太もかず兄もよっちゃんもすえくんも悪くないよ…。だからもう自分を責めるのは辞めて……。きっと大丈夫、お母さんとお父さんは助かるはずだよ。」
二人に言っているつもりだけれど半分は自分自身への慰めでもある。
「馬鹿だよ…。よっちゃんにすえ君…。なんでもっと自分の事を大事にしないの?」
思わず本音が口を継いで出る。
「「明日美殿…。」」
義経と季長は今にも泣き出しそうな顔でわたしのことを見上げている。
両親の事を完全に自分のせいだと思い込んでいる4人。
4人は何も悪くない。悪いのは全部わたし。
わたしがもっとしっかりしていたらお母さんもお父さんも今頃ここにいるはずだから。
でも、お母さんもお父さんも強いからきっと死なない。
絶対に助かるはず…。
だからまた両親と会える日が来る日まで、わたし頑張るから…。
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