助けを求める者

 両親と突然の別れが訪れて早半日が経過。一連の騒ぎがあった後わたしは展望台のベンチでずっと力なく横たわって灰色に染まる空をずっと見上げたままだ。


 この絶望色に染まる空はまるで、わたし達やこの国の人達の心境を表しているようで。

 聞いたところによるゾンビは都市圏どころか地方にも発生し始めて、日本全国はおろか、全世界中がパンデミック騒ぎになるのは時間の問題だろう。


 このままわたし達、どうなっちゃうのかな?

 この先、生きていけるのかな?

 なんて思いながら晴れることのない空を見上げたままため息をつく。

 もう空が何色かも忘れてしまいそうなくらい。群青色の空なんて本当にあったのかな?


「今日の空色は何色だ…?」

 一人で思わずそう呟いていた。


「「「「灰色…。」」」」

 展望台にあるテーブルに腰を掛けている4人がわたしの独り言に答える。


 いや、あんた達どこに座ってるのよ!?と思ったけれどそれを指摘する気力はない。


 チラリと自分の右手を見てみる。義経と季長の頬を思いっきりひっぱたいた時の感覚が生々しいくらいに残っており、手の平がまだビリビリと痛む。

 それと同時に心も痛い気がするのは何故だろうか?

 仕方なかったとは言え、暴力を振るってしまったのは消えない事実だ。

 後で謝っておこう。

 二人は着物の衿を正して、きちんと腰刀も仕舞われているので思いとどまってくれたらしく取り敢えずひと安心。


 これ以上こんな所でゴロゴロしていても埒が明かないよなあ…。

 これからどうしよう…。


 わたしはベンチから重い体をそっと起こした。

 4人はまだテーブルに腰を掛けて足をブラブラさせている。

 どうやら随分と暇をしているらしい。

 はあ、暇だなあと思った時だった。


「きゃああ!!誰か!!」

 女の人の叫び声が何処かから聞こえてくる。わたしはすぐにベンチから立ち上がった。4人もテーブルから降りてその絹を引き割くかのような悲鳴のする方へと向かう。


 展望台の階段を転がり落ちるような勢いで駆け下り、助けを求めている人の方へと向かう。


 すると、若い女の人が4体のゾンビに囲まれていた。


 わたしはヤツらを4人に任せて、ヤツらの気が4人に向いた所でそっと女の人を助け出す。

 年の頃は30代前半といったところだろうか?

 肩まで伸ばしてあるダークブラウンの髪の毛は後ろで一つに結ばれており、ベージュ色のセーターに黄緑色のロングスカート、スニーカーという出で立ちだ。


「怪我はありませんか?」

 わたしが女の人に聞くと女の人はコクリと頷いた。

 怪我がないなら安心してもいいだろう。 


 やがてヤツを倒し切った4人が戻ってきて女の人に声を掛ける。


「「「「大丈夫…?」」」」


 4人に声を掛けられた女の人はぽわんと頬を赤く染めると

「だ…大丈夫です…。」

 と挙動不審になりながら頷いた。


 すると女の人はわたし達の顔をまじまじと眺める。そしてわたし達が年下であると分かったらしく、女の人は緊張を緩めた。


「さっきは助けてくれてありがとう。お影で命拾いしたわ。」

 女の人はわたし達に優しく微笑みながらお礼の言葉を述べる。


「わたしはこれから避難所に行くから、じゃあね。」

 女の人はわたし達にそう言って立ち去ろうとする。

 本当はまだ怖くて怖くて仕方がなかったけれど年下の子に迷惑は掛けられないと思ったに違いない。


 でもさっきの出来事からして彼女一人で避難所に向かうなんてあまりにも危険すぎる。

 わたしは思わず

「避難所まで送っていきましょうか?」

 と女の人に言っていた。


「ねぇ、送ってあげてもいいよね?お願い!!」

 わたしが4人にお願いをすると4人は仕方がないなあとでも言いたげな表情で頷く。


 その様子を見ていた女の人は申し訳なさそうにしながら

「ごめんね、わざわざ送ってもらっちゃって…。」

 と言って再びわたし達に頭を下げたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る