それぞれの思い

約束

「…み…あす…み…。」

 誰かがわたしの名前を呼んでいる。わたしはいつの間に気を失って倒れていたみたいだ。


 誰かがわたしの顔を覗き込んでいる。ぼやけていた輪郭が段々ハッキリしてきた。

 清楚な感じの美少女と可愛らしい感じの女の子だった。里沙に奈央だ。

「目が覚めた?」

 里沙がわたしに問いかけてくる。

「わたし、いつの間に倒れていたの?」

「もう、そんな呑気な事、言ってる場合じゃないわよ?本当に危機一髪だったんだから!!」

 里沙が涙目で言う。どうやらわたしは本当に危なかったらしい。

「ねっ祐太君、本当に慌ててたもんね!!」

 奈央が今にも吹き出しそうな顔で隣をチラッとみる。そこには膨れっ面の四人組がいた。

「知らねッ。」

「知らん。」

「もう知らないからね。」

 どうやら御機嫌ななめらしい…。

「さっきまでこの世の終わりって感じだったのに~」

 奈央がぼそっと呟いた。

 何故こんなことになっているのかがわたしには全くと言っていいほど分からない。

「わたし、どうなっていたっけ?」

「ゾンビに食べられかけてたところを祐太君達に助けられたのよ。その後は五郎君にお姫様抱っこされてここまで来たの…。」

 奈央が真面目な顔でことの経緯を語る。

「そうなんだ…。」

 わたし、またみんなに迷惑かけちゃったな…。

 彼らが膨れっ面になるのも仕方ないや…。

「でも、明日美ちゃんが助かって本当に良かった…。」

 そんな事を言って奈央はわたしに抱きついた。 柔らかい感触と優しい香りがわたしをそっと包み込む。

 その柔らかな温もりに包まれて、わたしはすっかり安心していた。

「じゃあ私たち、明日美ちゃんのお母さんとお父さんを手伝いに行くわね。」

「行ってらっしゃい。」

 奈央と里沙を見送った後でわたしは祐太達と5人っきりになってしまった。

 なんと声を掛けたら良いのか分からない…。

 迷っていると意外な事に彼らの方からわたしに声をかけてきた。

「どっか行きたい所あるか?」

 裕太がいつになく優しい口調で話しかけてくる。

「いきなりどうしたの?」

 わたしが彼にそう問いかけると今度は一翔が答えた。

「この騒ぎが治まったらどこかに明日美ちゃんをつれていってあげようかなって。」

「遠慮なく申せ。」

 義経までわたしにそう言ってくれる。続いて季長までもが。

「何処でもいいぞ。」

「えっ…。」

 わたしは一瞬言葉に詰まった。それから少し考え込んだ。どうせならちょっぴりからかってやるか。

「じゃあ、ハワイ旅行に行きたいな。」

 わたしが裕太と一翔にハワイ旅行を提案する。勿論そんなの行ける訳がない。

「「ハワイ旅行ねぇ…。」」


「じゃあ、内裏で寝泊まりしてみたい。」

 義経には内裏に行ってみたいと。勿論身分的に内裏に入る事はほぼ無理。

「内裏かぁ…。」


「執権に会ってみたい!!」 

 季長には執権に会ってみたいと提案。

「ふーん。」


「「「「って…はああああぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 黙って聞いていた彼らが突然叫ぶ。周りはびっくりしてこちらを見ている。

 中には微笑ましそうにクスリと笑っている者も居た。


 ちょっとやり過ぎたかなぁ…。

 いくらクール男子でも突拍子も無いことを言うと取り乱すらしい。

 なんか可笑しいような面白いような気がして、ちょっぴり笑えてきた。

「い、今のうそ!!冗談だから!!」

 わたしがそう言った途端、彼らは少し口を尖らせてそっぽを向いてしまった。


 …かわいいかも…

「わたしは、みんなと一緒に花見がしたい!!」

 わたしの行きたい場所…それは桜の名所でみんなで花見をする事だ。

「良いけどよ、俺らが生きてたらな。」

 祐太がしれっとそんな事を言う。

「大丈夫だよ。かず兄も裕太もすえ君もよっちゃんもわたしよりずっと強いから。寧ろ、わたしが先に死にそうなのに…。」

 するといきなり四人ともわたしに向き直り、

「俺はっ!!」

「僕はっ!!」

「我はっ!!」

「某は…!!」

「えっ?どうしたの?いきなり。」

 わたしが戸惑っていると

「「「「絶対に明日美、お前を死なせたりはしない!!」」」」

 え…。本当にどうしちゃったの?

「「「「だからっ…」」」」

 まだ続きあるの!?

「「「「守らせてくれ。」」」」

 え…。本気なの?

「変なの……。でも忘れないで、わたしもあなたを、みんなを守るから。」









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る