五人囃子(ばやし)か縁結び【第弐幕開幕!】

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

第壱幕  宴、降臨!

序章    アイドル・トイ☆ミン

 ツヤのあるビニール製の、近未来ふうなステージ衣装を着て、キャンディがたくさん散りばめられたパネルを背景に、片手を腰にあて、もう片方の手を、元気に頭上へ振り上げているアイドルの静止画が、パールピンクボディのスマホの画面に映っている。


「よし、髪のリボンはこの角度ね」


 自室の鏡台の前で、スミレは長い髪を七色のド派手なリボンでサイドテールに結んでゆく。このアイドルが髪に付けているのと、そっくりのリボンだ。


 衣装も、できるだけ再現。材料費をお安く抑えた、スミレのお手製だった。


「衣装もヘンなとこないわよね」


 両手で衣装のあちこちを触り、鏡で最終チェック。


「よし!」


 スミレは椅子から立ち上がり、スマホを片手に、フローリングの床を歩きだす。撮影会場は、決まっていた。クローゼットの前だ。


 クローゼットの扉に、折り紙で作ったキャンディをたくさん、両面テープで貼っておいた。スマホの静止画と全く同じ『トイ★リン』のポスターも貼ってある。


 スミレは画面のアイドルのポーズを、真剣な顔でまねてみる。


「手はこの角度ね。覚えたわ」


 まず、練習で一枚、カシャリ。

 真顔のままのスミレでも、ポスターの中でウィンクする彼女と、見紛うばかりによく似ている。


 撮った写真を確認して、訂正個所は無いか探す。


「よし、カメラもいい調子だわ。次は、脚立きゃたつ!」


 たたまれた状態で部屋のすみっこに置いてある、銀色の脚立を持ってきて、カメラの三脚代わりに、部屋の真ん中で立てる。さらにスマホを立てかけるために、百均で買ったブックエンドを載せた。


 この位置、この角度ならば、ポスターの彼女も見切れずに入る。スミレは事前に何度も撮影して、脚立とブックエンドの完璧な設置場所を発見していた。


「さあ、いよいよ本番よ。準備はできた?」


 スミレがさっきから独り言を向けている相手は、鏡台の鏡にもたれて座っている、小ぶりなペットボトルサイズの日本人形。スミレが身につけている衣装の、小さいバージョンに身を包んでいる。


 クローゼットを開けて、リサイクルショップで買った赤ちゃん用の椅子を引っ張り出し、スミレはお人形を丁寧に両手で抱き上げて椅子に座らせた。


「アプリでタイマーを起動して、三十秒後にセット……できた!」


 スマホをブックエンドに立てかけて、急いでクローゼットの前に立つ。たくさんのキャンディを背景にして、ポスターとおんなじ表情、ポーズで、


「ハイ! ちーず!」


 スミレは何かを記念するたびに、トイ★リンのまねをして、写真をネットにアップする。


『みなさま、こんにちは! トイ★リンのそっくりさん、トイ☆ミンです! 今日は嬉しいご報告♪ ステキな彼氏ができました!』


 可愛いスタンプでいっぱい飾って、今の気持ちをそのまま表現。トイ★リンにそっくりすぎることが悩みだったスミレも、今や自撮りにハマっている。


 スミレがここまで変身できたのは、とある少年のおかげだった。


「すみれー、コーヒーとココアは、どっちがどっちなのだ?」


 とんちんかんな質問が、台所から聞こえてきた。私室にいるスミレからは、台所に立つ少年が見えない。


「苦い匂いのするほうがコーヒーで、甘いほうがココアよ」


 わかったー! という元気な返事。


 事の始まりは、少年の一言。


れてもらうばかりでは、なんだかくすぐったいな。私もココアというものを、皆に振る舞えるようになりたい」


 しかも、一人でやりたいと言い出した。心配だったけど、少年の笑顔を信じて、スミレは任せてみることにした。


 ガチャン、パリーン、という大きな音を聞くまでは。


「うっそ、もう割っちゃったの!?」


 スマホを床に置いて、スミレも台所へ出動。


「トイ☆ミンよかったね!」「彼氏のww写真みせてww」「お人形かわいい~!」「は? おもんな」などなど。

 どんどん集まる、いろいろな反応。



 そんなスマホをのぞきこむのは、スミレが赤ちゃん用の椅子に乗せていたお人形。寄せられるコメントに、うきうきと体を揺らす。


 コメの続きが読みたくて、スミレのまねをして画面をタップした。


 ……しかし、木製の指先では、画面が反応しない。

 くじけず、タシタシとタップし続ける。


「あれ? スマホ、どこに置いたっけ? ココアの写真も撮りたいんだけど」


 スミレが部屋に戻ってくると、スマホの画面を下敷きにして、うつ伏せで倒れているお人形がいた。


「あら! 倒れちゃったの!?」


 スミレが大事にお人形を抱き上げると、お人形がしっかりとスマホを掴んでいたから、おもしろくて苦笑した。


「あとでいっしょに観ましょうね。それじゃあ、台所に行きましょうか。あなたの分も、ちゃーんとあるのよ」


 お人形がスミレを見上げて、こくんとうなずいた。

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