第38話 鋼鉄の町 ガンバルラの街

 ――――鋼鉄の町ガンバルラ。

 昔はかなり栄えていたらしいのだが、今では衰退しゴーストタウンと化している……らしい(実際に見た訳では無いから分からないのだけれど)。


 鋼鉄の都市というのは本当に昔の事なのだなと実感する。

 ――――錆びた鉄で出来た建物が街を森の様に生えている。

 ――――外からでは、鋼鉄の壁で何も見えないし、門は巨大な鎖で繋がれていていてとても中に入れそうにない。


 鉄の臭いが鼻を突く。

「やっぱり、そうなるっすか。裏口があるっす。そこから入るっすよ」

 彼はそう言って、私達を案内した。


 その扉は、門のすぐ右下にあった。

 でも、知っているか、よく見るかしないと絶対に気付かない。

 それくらい、門の配色と極似していた。


 中の扉を潜る。

 中に入り奥に進むと、もう一つ鉄で造られた扉があった。

 取っ手を引っ張り扉を開ける。


 ――――広がる別世界。

「ここは……」

 そこには、私の知らない世界が待っていた。


 見渡す限りの機械機械機械。

「あ、あれは何よ……」


 人だ……。

 目の前には人が歩いていた。

 それも、一人ではない。


 顔はどれも端正で、美人ばかりだ。

「人が……いる…………」

 ギルが意外そうな表情を浮かべて、ぼそりと呟く。


「そんな、馬鹿な。だって、この国はもう滅んで…………」

「どういった事情なのかは知らないけれど、人間が住んでいるようね」

「そうっすね」

 私達は取り敢えず、町の中を歩いてみる事にした。


 建物は、外から見た風景と全く同じだ。

 錆びた鉄鋼で建築されている。

 町の人たちは普通の人たちだ。


 車や馬車もある。

 馬車の馬はどうやらロボットらしいけど。


 どう見ても、科学技術が昔栄えていたんだろうなと思わせる。

 ――――高い技術力。


 現代でも十分、技術的には上位クラスに入るほど高いのではないのだろうか。

 でも、少し気になる所がある。


「あれね。食料を売っている所が無いわね」

 おねぇが呟く。

「たしかに」

 言われてみれば無い。


 そういえば、食べ物をこの街に入ってから見ていない。

「それらしいところはあったっすけどね」

「ちょっと、入ってみましょうか」

 文字は私達でも読めるエルタ語。

 世界で一番多く使われている言語だ。


 暫く歩いて行くと、大通りに出た。

 そこでも店らしい店はあまり見かけなかった。


「ワンチャン、人に聞いてみるか……」

「そうね。それが一番良さそうね」

 という事で、人に尋ねてみる事にした。


「あの~、すいません」

 こういう時はなるべく、優しそうな人に話しかけるのが一番いい。

 トラブルに巻き込まれるのは嫌だし……。


 優しそうな、白いワンピースを着た貴婦人に話しかけてみた。

「ん? どうしましたか?」

「あの、ここら辺にレストランとか食堂とかってありますか?」

「ええ。あそこに行けば……」

 彼女は指を指して教えてくれた。

「ありがとうございます」


 彼女の言う通りにその場所へ行くことにした。

 カフェの様な趣の場所だ。

 まさに、癒しの空間。

 このレトロな雰囲気が私は好きなんだよね。


 お店の奥にある窓際の四人座れる所に移動する。


 メニューを開く。

 ケーキ、パンケーキ、紅茶、コーヒー等々――――。


 甘い食べ物が沢山。

 鼻をくんくんとさせて嗅いでみる。


 甘い砂糖の匂い。

 ピンク色と水玉模様、淡い黄色、水色、オレンジ色の世界が私の視界に広がっていく。


「私、パンケーキ」

「それじゃ、私も同じので」


 ギルの方を見て……。

「な、なんだよ……」

「早く決めてよ」

「わ、わっーてるよ」

 彼は慌ててメニューを見てぶつぶつ独り言を呟いて考え始めた。


 姉と顔を合わせてくすくすと笑い合う。

 彼は口は確かに汚いけれど、結構可愛いところがあるんだねって。

 姉とアイコンタクトで話し合う。


 ここら辺は流石双子の姉妹だなと思う。


 二人でニヤニヤしながら彼の反応を楽しむ。

「もう、じろじろこっちを見るなよ。恥ずかしいだろうが!!」

 そう言って、メニュー表を立てて顔を隠す。


 彼は見た目によらず結構恥ずかしがり屋な所があるらしい。

「決めりゃ良いんだろ!! 決めりゃ!!!!」

 どうやら決まったらしい。

 定員さんを呼んでメニューを頼む。


 話を切り出したのはおねぇだった。

「ねぇ。これどういうことなの? 人間はいないって言ったじゃない」

「いや、本当なんだ。俺が以前来た時は人間がいたけどな。話に聞いただけだけどな。この国の食料の半分以上は外から輸入してきた奴らしいんだ。でも、数年前から段々と輸入を廃止していった。輸入を廃止したらこの国は滅んでしまう筈なのに……」

「なんで自分の首を絞めるようなことをしたわけ?」

「んなもん俺が知るかよ!!」

 右腕で机を軽く叩いて感情を露にする。


 彼は唐突に周りをきょろきょろ見渡し、身を乗り出してひそひそ声で、

「でも、それについての都市伝説があるんだ。聞きたいか?」

 何か、面白そうなことになってきた。


 心がうきうきと踊りだす。

 ここは年頃の私達。怪談とか都市伝説とか言うのには興味ある。

「ぜひ、詳しく」

 私とおねぇも身を乗り出して、聞くモードに入る。


「それがな、噂ではこの国は人工知能の開発をしていたらしいんだな」

「人工知能?」

「そうだ。人工知能だ。機械に人と同じように物事を考えたり、感情を持たせたりしようっていう奴だ。略してAIって言うんだがな。開発、研究をすること自体は悪いことじゃねぇ。実際、町の中でも実践されたらしいんだ。が、しかしだ――――」

 声が低くなる。

 ここから面白くなるところ!!


 用心して聞かなくちゃ。

「その人工知能が国の中で反勢力組織が出来てしまったらしいんだ。で、そこからAIの反逆が始まった。元々科学技術力に長けた奴らだ。AIの開発者や科学者、技術者を拘束して、自分たちの管理の仕方、仕組みを彼らに聞きだしたらしい。民間人は皆殺しを……いや、虐殺したそうだ。で、今は――――」

「今はそのAIがこの国を牛耳っているってわけね」


「そういうことだ」

 とても信じられない。


 けど、本当にありそうなことだ。

 まぁ、だから都市伝説なんだけど……。


「いや、でもまさかそんなわけないわよ。だって、それが本当ならここにいる人間全員AIってことになるじゃない」

 そう考えたら、背筋がゾクッとした。

 見た目は完璧に人間なのに、中身は完全にきかいだなんて。


「お待たせいたしました」

 丁度そこへ、頼んだ品が来た。

 黒髪ロングストレートのおねえさんだ。


「っと、おわぁ!!!!」

 椅子の脚に躓いてすっころんだ。


 食べ物は見事に放物線を描き、地面に落下してゴミと化してしまった。

 お皿も四方八方に飛び散ってしまい、お皿としての機能を失ってしまった。


「だ、大丈夫ですか!?」

 転んだ彼女の手を握り締めた。


「だ、大丈夫です。これくらい……」


「でも、心配です。おねぇ。魔法を」

「うん。分かってる」


 彼女の手を見る。

 お皿で人差し指を切ってしまったようだ。


「ああ。これは……」

 彼女の手からは血が流れていなかった。


 目を疑った。

 信じたくは無かった。

 でも、自分の目でそれを見てしまった。

 ――――『真実』を。


 彼女の人差し指の切り傷をしたところには、幾つもの鉄の線が複雑に絡み合っていた。

 彼女は――――。


 人間では無かった。

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