第4話 マヌ・ルーサの戦慄なる人生—1
時は今から約60年前に遡る——
私の名は、マヌ・ルーサ。
王都、アクロポリスの聖騎士の1人だ。
好きな食べ物は、特には無いが、嫌いな食べ物も特に無い。
好きな人はいるににはいるが、心の内を打ち明けられずにいる。
ある日、アクロポリスの今の王の前任者。第13第国王 ジャック・ペルーに呼び出された時のことだ。
「いきなり呼んで済まなかったな」
「いえ、王様のご命令なので。それに、私はこの国に命を捧げると決めた聖騎士の1人ですので」
「うむ。良い心掛けだ。マヌ・ルーサよ。お前に重要任務について頂きたいと思っている」
「重要任務ですか?」
「ああ、重要任務だ。最近、ネクロマンサーのカルト教団のようなものが出来てな、『ノアの死霊団」というんだが——。お前も名前くらいは聞いたことがあるであろう。世界を新しい時代へと導く事を目的として最近活発に活動をしていて、規模もかなり大きくなってきている。既に、警戒体勢を取らざる負えない状況だ。その組織が、アクロポリスに現在進行中で攻めに来ている。その第1隊長になって欲しい。どうだ? 出来るか?」
「わ、私が・・・ですか?」
「ルーサよ、そなたの言いたいことは分かっておる。なぜ、こんなにも若い自分が第1隊長という重要任務を任されるのか知りたいのだな」
私は強く頷く。
その通りだ。
こんなにも若い私が隊長、それも第1隊長という責任の重い任務を任されるのはいささか疑問だ。
ベテランの騎士もいることだし、適任者は他にもいるはずだ。
「しかしだな、現在この19歳という若さで聖騎士に上り詰めた実力は誰しもが認めることだ。お前は、それが他の者達の妬みを買うと考えているのだろうが、逆だ。ベテランの聖騎士も若手の騎士も君のことを尊敬しているし、その実力を強く買っている。だから、もっと自分に自信を持て」
「は、はい」
それから、私はその『ノアの死霊団』という組織を倒す為の第1番隊長から第10番隊長のうちの第1隊長に選ばれたのだ。
無論、第1番隊長なわけだから、その期待も相当なもので、当時の私としてはかなり重荷の仕事だった。
若いし、周りの若い女の子と同じようにお洋服やお化粧をして、お洒落をして、綺麗な格好をして、街に繰り出したいという気持ちもあった。
けれど、立場上それは無理なことは分かっていたし、私は聖騎士として生きていくことを誓った身なのだから、そんな儚い夢のようなことが叶わないということは理解していた。
我慢するしかないのだ。
私は、女の子であることを捨てて聖騎士として生きることを——民を守る為に生きることを誓ったのだから。
王様の情報によれば、その『ノアの死霊団』がこのアクロポリスに攻めてくるのが7日後であるということらしかった。
彼は何も言わなかったが、かなり急に隊がら構成された事から、急に情報が出回って来たのだろう。
恐らく、王専属の裏の情報屋かスパイをしている者から情報を得たのだろう。
今は、どの国も緊迫状態にいる。
問題は、この『ノアの死霊団』にある。
今から 5年前、『ノアの死霊団』というネクロマンサーのみの団体が結成された。
目的は、先程王様が言っていた通り、『世界を新しい時代へと導くこと』、『新時代を築け!!』だった。
彼らは、遠距離魔法を用いたり、テロや誘拐、殺人を行うことによって、デモンストレーションをしてその際に自分達の団体について宣伝した。
それは、若者にとっては衝撃的で、刺激的で、魅力的な出来事だったようだ。
あらゆる国の若者が次々へと『ノアの死霊団』に入り、『新時代を築け!!』のスローガンと共に各国でテロを起こした。
国民は、どこでテロに遭うのか分からない、誰がテロを起こすのか分からないという恐怖心に駆られる事になる。
国に広がる国家とテロへの不安や不満、恐怖心、疑心感が溜まり、ある国ではクーデターもあったそうだ。
今では、国の政府と政府が協力し、『ノアの死霊団撲滅計画』を建てて『ノアの死霊団』の規模は激減した。
残るは残党のみ。
だが、窮鼠猫を噛むとはこの事だ。
彼らは、王都アクロポリスを残党のみで攻めてくる気である。
しかし、だからと言って油断してはならない。
例え、残党であろうとも敵はテロ集団——どんな作戦に出るか分からない。
慎重に対処しなくてはならない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「さあ、作戦開始だ」
今日は、『ノアの死霊団』の残党狩りの日。
これでここ10数年の悪夢に終止符を打つ。
情報は十分に集まっている。
敵の規模は、約500人に対し、こちらは5000人。
ネクロマンサーだから、恐らく死体を使ってくるだろうから規模はもっと多くなるだろう。
攻撃方法は、死体を使った死霊術や呪術、高位の魔法となると、悪魔を呼び寄せたりする者がいる。
しかし、こちらにはその対処法もある。
私の主要陣地は、大きく分けて、アクロポリスの北500メートル先に存在する山の頂上と、アクロポリスの城の中、そして、東にある緩やかな山だ。
アクロポリスの北東には大きな魔獣の森がある。
この森は、その名の通り、獰猛どうもうな魔獣が多く、冒険者や国家騎士でも容易に近付かない。
でも、このアクロポリスに奇襲するのであれば、ここを通る以外に道はない。
「さぁ、戦争の始まりだ」
私は本物の地獄を知らなかった。
戦争を知っていたはずなのに、仲間の死を知っていたはずなのに——。
これから、最悪な結末があるとも知らずに——。
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