第1話 旅立ち —2
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場所は変わり、ロジャース姉妹の師匠——
メルドラ・ドラグニルは自分の部屋で1枚の写真を見つめていた。
若き日の彼女の写真だ。
いや、今でも十分に若い容貌をしているが、これは魔法の効果だ。
実際は50歳だ。
本来なら、顔に皺が出来始めてもおかしくは無いのだが、彼女の顔はまるで、20代前半のように透明感のある艶色をしている。
「あの子達は行ってしまったよ」
写真の中にいるのは、真ん中にドラグニルとその両脇に2人の人物がいる。
1人は、ドラグニルの肩に手を回して笑っている。
金髪ロングストレートの青い瞳をした女性だ。
もう1人は、銀色の長い髪をした男性だ。
彼は、緊張をしているのか顔が硬直している。
2人共、真っ白な服を着ていた。
そう、これは2人の結婚式の時の写真だ。
女性の方は、ドレス。
男性の方はスーツを着ている。
この世界では珍しいことでは無い。
どんな色にも染まるように、純白の服を新郎新婦は着る決まりがあるのだ。
その時の神父の言葉にこんなものがある。
「あなた達は何色に染まりたいですか?」
これを新郎、新婦の2人はそれぞれ自分の考えを述べるのだが、2人の出した答えは一つだった。
「虹色です」
「それ、違うじゃん」とその時の私は思った。
普通は、情熱的になって欲しいから赤、静かに、知的な子に育って欲しいから青と答えるのが一般的なのだが——
この2人には常識など通用しなかったらしい。
あまりの意外な答えに結婚式場はちょっとした騒ぎになったものだ。
何故そう思うのか、という神父の問いに2人はこう答えたのだ。
「何色に染まるかは私達にも分かりません。未来のことですから。時には、黒い憎しみや怒りに染まることもあるでしょう。真っ青な深海の絶望に沈む時もあるでしょう。ですが、それでいいのです。それを体験すること自体は悪くは無いのです」
新婦は続ける。
「どの色にも染まる可能性はあるのです。様々な体験をして、本を読んで知識を得て、知見を広げ、自分の体と頭で試行錯誤をしたいと思います。それは、一生分からないかもしれませんが、追求すべきものなのです。私達の子供も同じです。この子達が何色に染まるかは分からない。でも、考え続ける子にはなって欲しいと思います。物事を探求し続ける子にはなって欲しいのです」
そう言い終えた時、結婚式場には異様な空気が流れたものだ。
なんとも言えない、へばりつくかのような空気が。
その後には何も無かったかのように式が進められたが・・・・・・
「ふ、あれは面白かったな」
自然に笑みが零こぼれる。
しかし、あの時の言葉を聞いてはっと気付かされた。
師とは、導く者でもあるが、迷う者でもあると。
弟子と共に人生や学問を迷い、探求し続ける。
それが師の役割であると。
2人に赤ちゃんが出来た時、
「私達にもしもの事があったら先生、宜しくお願いします」
そんな事を言われた。
「馬鹿言ってんじゃ無いよ。アンタ達親が生きて子供を育てないでどうするつもりなんだい」
「先生も知っているでしょ? 私のお腹にあるものを。それと、今この世界の裏で何が起ころうとしているのかを。この子達が危険に晒される可能性はとても高いわ。その時は、《魂移しトランスソウル》で追い出すしかない。そうなれば、私も夫も命はないでしょう。だから——」
弟子の時には一言も弱音や文句を言ったことがない子だったし、特に、才能もある子だった。
だから、
「分かった。その時は私がこの子達を受け取ろう」
と言ってしまった。
聡明な彼女の事だからそのリスクも覚悟も承知の上なのだろう。
実際、あの事件が起こってしまってあたしがあの子達の師となってしまった。
皮肉な運命だ。
本当は、あの子達は私の弟子になるべきでは無かったのに。
両親のことをあの子達に話すことはどうしても出来なかった。
怖かったのだ。
両親を守ることが出来なかった私を責めるのではないのかと。
世界三大魔術師の1人と言われても人1人救えなかった無能で臆病な人間だ。
でも、だからこそあの双子には強く生きて欲しかった。
どんな困難に見舞われようとも強い心と体を持った人間になって欲しかった。
自分の体と心に生きていける人になって欲しかった。
それが、あの子達の両親の願いだったから。
「あの子達は強い。だから、安心して天国で見守ってやれ。アンタらの意志と想いはちゃんとあの子達に届いている」
空にいる2人の弟子に優しく語りかけた。
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