Elysium//program world project

祭 仁

第1話 Elysiumー死後の楽園―

“死”―――残酷で、恒久的で、平等だった。

 そんな概念は、21XX年エドワード・ヒーガーの人間の情報をコンピュータに書き込めるプログラム『Elysium-エリュシオン-』により完全に消滅した。

“死”—――より残酷で、一時的で、不平等になった。

 人類は「死後の楽園」を手にしたのだった。果たして、その楽園はユートピアなのか、ディストピアなのか…

 これから記されるのは、その楽園に疑問を持った少女たちの行く末を描いた物語である。

 22YY年現在。

「ねえ、エイミー知ってる?21XX年エドワード・ヒーガーの『Elysium』のおかげで、人間の感情をコンピュータの世界へ放り込める技術が出来た。そして、私たちに最も身近にあった死は最も遠い存在になってしまったの。」

「それぐらい知っているわ、教科書に『人類最大の発明』と太字で書いてあるもの。今更それがどうしたって言うの、カーリー。」

「おかしいと思わない?アメリカのゴリ押しがあったとはいえ、たった百年間で、法律の壁を「尊厳死」という形で難なく乗り越えて、『Elysium』は全世界に普及し、アメリカは莫大な富を得た。」

 カーリーの言葉は、いつも私には難しかった。そして、いつも私の心を鷲掴みにして、かき乱す。私は平常心を装いながら、次のカーリーの言葉に胸を膨らませる。

「それがどうしたっていうの、何もおかしくないと思うけど…誰にとっても死は怖いわ、それを逃れらるなら皆飛びつくんじゃないかしら。」

 カーリーの口角がほんの少し上がる。

「エイミー、確かに考えれば、ね。でも、何か他に大きなメリットがあったんじゃないかしら。『Elysium』反対国を黙らせて、法律の壁をいとも簡単にぶち抜いてしまうほどの。」

 …ゴックっと、私は唾を飲み込む。

「例えば……」

「んー、そうね。例えば、『Elysium』が普及していなかった時に、貧しかった中央アフリカ共和国は普及後、全国民が『Elysium』を使用して貧困からの脱出を試みたの。結果、今では450万人が一つの箱に収まってしまったの。

 でも、冷静に考えてみて、たった一つの箱に450万人の情報なんて入るのかしら。」

 背中に服が張り付いて、気持ち悪い。

「人の記憶は理論上、約3TBいるそうよ。それが450万人なんて無理な話だと思わない?

けど、私ね。可能な方法が一つだけあることに気づいちゃったの。」

 カーリーの口角は、どんどん上がっている。カーリーは、一つの憶測しんじつに辿り着こうとしている。

 もし、これ以上聞いてしまったらと私の第六感が警鐘を鳴らしている。

 しかし、それに反して私の体はカーリーの憶測しんじつを待っている。

。中央アフリカ共和国だけじゃない。現在、箱になった国が他にも沢山あるわ。それにより、人口増加による食料不足は、いくばくか緩和されたでしょうね。

 つまり、『Elysium』を使用したが行われている。どうかしら、私の真実おくそくは。」

「ねえ、エイミー。私と一緒に楽園の真実を覗いてはみたくないかしら。」

 カーリーは、私の目を覗き込んだ。その瞳は全てを見透かしているようだった。

 ―――『知ってしまったら、もう二度と知らなかった頃には戻れないんだ。』

「分かったわ。カーリー1人じゃ危なっかしいから、私が傍にいてあげるわ。」

 これが私の最初の強がりになる。

 カーリーは、私のおでこにキスをした。ひんやりとした唇が、私を少しづつ冷静にする。

「ありがとう、エイミー。」

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