ログイン1000日になったらステータスと異能を貰いました〜天才ぼっちに俺はなる

テイカー

第1話ログイン1000日のランカー、翔

『ソード&ファンタジー』というゲームがあることを、この日本という国の半分くらいの人間は知ってるんじゃないだろうか。


 俺が小学六年生の時に配信されたスマホアプリゲームである。最近ではダウンロード数は五千万に上り詰めるなど、人気がウナギ登りのアプリだ。


 俺は配信と同時に、ゲームを開始し毎日ログインしてきた。あともう少しで1000日ログイン達成なのである。1000日ログインの報酬は?になっているため、わくわくである。


『ソード&ファンタジー』の魅力は、剣と魔法が使える世界で、自分でキャラクターを操作し、他のプレイヤーと協力してモンスターを倒したり、PVPなどもあること。そしてキャラクターのステータスも自分で好きなようにいじれることだ。


 俺はターン制のゲームはあまり好みじゃない。まあポ〇モンやドラ〇エなんてものもやっていたが、やはりスマ〇ラとかの方が好きなのだ。


 スマホゲームでありながら、『ソード&ファンタジー』は綺麗なグラフィックと精密な操作性を保持している。サーバーも重くなったらすぐにメンテナンスをし、今では重くなることなどない。


 PVPではプレイヤーランキングもあり、俺は恐れながらランキング1位の座を頂いている。


 一人ぼっちな俺の唯一の生きがいとも言えるこのゲームで1位を取れていることは嬉しい限りだ。毎日ログインして何時間も鍛えているだけある。


 そして俺は、明日1000日目のログインをする。


 ✖✖✖


 今朝はログインだけなんとかしたが、ログインボーナスが何かを見るほど余裕がなかった。寝ぼけたままログインし、時計を見て遅刻ギリギリなのを理解してスマホを触っていないのだ。


 学校ではスマホの持ち込みは基本禁止。まあ持ち込んでるやつが大半で俺も持ち込んでいるが、今日に限って寝坊してスマホを置いていってしまった。


 窓からグラウンドを眺めると、サッカーボールが縦横無尽に動いて互いのゴールに向かおうとしている。


 彼らは鼻を赤くしながらも半袖になってまで動き回っている。汗をかいている者も沢山いる。彼らの身体からは心無しか、湯気が立ち込めている気がする。


 冬休みが開けた三学期は、俺の中学では自習の時間が多くなる。


 自習の時間は先生がついている時もあるが、三学期が始まってまもないというのにすでに先生がつかない時間などが増えている。だから俺もこうして余裕を持って窓の外を眺めているのだが。


 先生がいなくなったら大体のクラスはうるさくなるだろう。


 まだ声の大きさはそこまででもない。だがそのうち、喋る人間が増えていき声の数が増える。そのせいで少しずつ聞きにくくなる相手の声に反応し、少しずつ声を大きくしていき、最終的にやかましいと吠えたくなるぐらいまでガヤガヤし始める。


 それがしばらくすると、何故か誰も喋らない瞬間ができ、その沈黙で笑いが生まれる。


 あれ、何が面白いんだろうな。喋らないだけでウケるなら俺はすでにクラスの人気者なんだが・・・・・・。もしかしたら、俺が気づいてないだけで人気なのかもしれない。いやないな。


 クラスのカースト上位ってのは別に顔がいいだけで入れるわけじゃない。あそこにいる牧原だって、全然かっこよくない。これは誰の目から見ても明らかだと思うが、トークが上手く相手に同調することで他人の力を得ることを可能にしている。


 俺にはあいにくそんな能力は備わってない。同調しようとしても相手がどのようなことを考えているとかがわからないから、「お、おう」とかぐらいしか言えない。ただのコミュ障だった。


 だが顔が良ければ絶対的にカースト上位にくい込むのだ。


 栗原を見てみよう、あれが典型的な例だ。


 なんだよあれ、頭が良くて顔が良くて運動できるとか、死ねぇ!


 もうね、あいつに勝てるの勉強でギリギリなんだわホント。


 学期末テストなどでは、あいつが3位で俺が2位にくい込むのが定番なのだが、あいつだけ皆にすごいすごいと言われ、俺には誰も反応しない。順位を誰にも言ってないからしょうがないのだが。


 いやー理不尽だね。だって俺はゲームと勉強を両立させているけど、あいつは学校生活と部活と勉強を少なくとも充実させている。これにもしゲームが上手いとかが入ってみろ、俺は泣く。


「なぁ、先生もいないしちょっといいか?」


 少しうるさくなったところで翔が立ち上がる。なんだ?珍しく注意するのか?


 あの手の人間はこういううるさい時間をあまり積極的に止めようとはしない。あいつらもうるさいから。


「なんだよ俊!先生来ても知らないからなー?」


 俊とは牧原のことである。俊君、席が真ん中だからって立たなくていいんだ。さっさと座って大人しく勉強しとけ。いや、逆にずっと立ってろ。そして怒られろ。


「後でサークルでも連絡するけど、僕達はこれから受験勉強で忙しくなる。だから今週の日曜日にでもお疲れ様会でもしようと思うんだ」


 サークルとは、スマホのSNSアプリである。友達とコミュニケーションがとれるメッセージ機能やスタンプなどのユーモアが溢れた課金項目、さらに無料通話などがある。


 このアプリには既読機能、トーク画面を見た瞬間に既読とつき、目にしたことがわかる機能により既読無視という言葉が生まれた。


 まあそれはそれとして、まだ受験も終わってないのにお疲れ様会って馬鹿かよ。それに、受験まで二ヶ月きってるぞ。俺は志望校的には多分余裕で合格だけど、他の皆は違う人達もいるだろう、きっと。


「おっ!いいね俊!あたしも賛成!」


 クラスの女子のリーダー、相川が反応した。下の名前は忘れた。


 彼女もまた、牧原みたいに反則的なルックスを持っている。綺麗な顔立ちで皆に話しかける歩く公害みたいなやつだ。


 大体思ったのだが、こんな所でそんなこと聞いて何をしたいんだ?さっき言ったとおり


「それで、ざっとでいいから人数を確認したいんだ。後でもう一度サークルでも数えるけど、何人ぐらいいるか今のうち知っておきたいと思ってね。お疲れ様会ではご飯食べに行ったりしよーかなって思ってるんだけど、行けるか確証なくても、行きたい人とか行く予定でもいいから手を挙げてくれるかな?予約とかあるし」


 ・・・・・・本当に意味がわからない。いや、あいつの意図はわかった。これはあれだ、自己欲求を満たすためだ。


 あれは無意識に行くやつと行かないやつを目にし、行かないやつらを眺めて卑下するのだろう。


 腹が立つ、けど行きたくない自分に嘘はつけなーい!


 勢いよく手を挙げる牧原勢と、周りの様子を伺いつつ手を挙げる中立勢or陰キャ勢、そして手を挙げない俺、彩川翔勢の四つのグループが見られた。俺1人だから、グループじゃないねっ!ただのボッチだね!


 本来ならここで手を挙げて、サークルのグループトークで、「あ、ごめーん☆やっぱ行けなかったーてへぺろ☆」みたいな文を打ってかわせばいいのだろう。多分陰キャ勢は皆そうする。


 あの牧原軍団も全員来るなんて思ってないのだ。むしろそいつらには来てほしいなど思ってもいなく、行けないという言葉をグループトークで待っているのだ。


 俺は親切で信念の揺るがないおとこなので鼻から手を挙げない。


「彩川君は来ないのかい?」


 牧原は全体を見渡し、俺を視界に入れた途端話しかけてきた。


 ニコニコしながら話しかけやがって。そんなに俺のこと好きなのか?イケメンなどのトップカーストは好きな子をいじめたりはしない。むしろ積極的にアタックする獣なのだ。


 でもさぁ、いくら好きでも、こんな皆の前で名指しされると、翔君のメンタルは豆腐ぐちゃぐちゃに崩れちゃうんだよ?今も足ブルってるし。


 悪いが今の日本はいじめに敏感な国だ。この集団の中で俺を当てるということに対して、俺がいじめだと思えばいじめになるからな!?無理か?無理だな。


 それやるとなんか男として負けた気がするからやめておこう。牧原、俺の優しさに助かったな。


「行けない。ちょっと用事があって」


 ちょっと用事があって。このパワーワードを俺は何度も行使してきた。このクラスでは使ったことはない。そもそもサークルで集めることしかなかったクラスなので、グループトークでは行かないとしか言ってないからだ。


 ちょっと用事があって行けないのであって、用事がなかったら行きたかったよーとさり気なくアピールしつつ、その用事をわざわざ聞くのもどうかなぁという気持ちにさせる素晴らしい連撃。まさに俺の切り札。


 どうだ牧原、お前も満足だろう?俺を名指しして弄りつつ、確実に邪魔者を排除できるんだぞ?


「どんな用事があるんだい?」


 ・・・・・・はぁ?


 え、目的が読めない。え、なんとなく聞いてるの?え、もしかして頭悪いのかこいつ?


 でもあめぇ。甘すぎるわ牧原ちゃん。俺がその次の言葉を考えてないと思っていたのか?俺をなめすぎだぜ。


「え、えーとぉ。じゅ、塾に行くんだよねぇ」


 ・・・・・・負けました。


 もう嘘っぽいどころか99%嘘なのがわかるゴミ回答をしてしまった。


 周りの視線が心無しか痛い。自意識過剰だと願うばかりだ。


「そっか。じゃあ塾が終わってこれそうなら来なよ!」


 牧原の優しいお誘いのおかげで俺は冷静な思考を取り戻しつつ、自習に戻る。


 くやじぃいいいいいよぉおおおお!


 俺学校じゃなかったら泣いてたよこれ。強がって手を挙げなかったけど、もう精神崩壊して地面に埋まるレベル。


 これがリアルのレベル差か。プロとアマチュアぐらいの経験値の差を感じた。


 まず俺コミュ障過ぎるだろ。何あの返事。ただのキモオタじゃねぇか!否定できないけど!


 先生が来て再び静かな自習時間が始まったが、俺は疲れのあまり寝てしまった。


 ✖✖✖


 家に帰ってみると、家族の姿は見られなかった。まだ四時だ、妹も学校帰りかもしれないし、親は仕事だろう。


 ぼっちの帰宅は音速と同じくらい速い。俺は自宅から歩きだが、自転車で来てるぼっちは多分光速だろう。


 学校で話す人がいないので自然と学校に残ることはない。掃除や先生に呼び出されるぐらいが俺達ぼっちを縛るジャッチメントチェーンだ、ク〇ピカさん本当にリスペクト。


「『ソード&ファンタジー』やるかぁ」


 今朝は1000日目のログインをしただけだ。寝坊はよくないなまったく。


「さてさて、ログインボーナスは何かなー?」


 アプリを開き確かめてみる。


「ん?リアルステータスプレゼント?異能の特典もついてくる」


 リアルステータスってなんだ?新しいステータスか?異能ってなんだ?そんなものこのゲームのシステムには存在しなかったはずだが。隠れステータス的なやつかな?


 内容を確認せずOKのボタンを押す。


「な、なんだこれ」


 スマホ画面から突然、『ソード&ファンタジー』のマスコットキャラの一匹、エマちゃんが出てきた。からこの俺の部屋に。


「こんにちは!ソーファンのハリネズミ型マスコットキャラ、エマちゃんだよ!」


「は、はぁ?まあエマちゃんだね」


 ハリネズミ(♀)のエマちゃんが出てきたが、俺は事態を全く呑み込めない。


「1000日ログインおめでとうございます!抽選の結果、あなたには現実世界でステータスと異能を与えられます。よかったですね!」


 待ってくれ、何がよかったんだ!?

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