悪魔の一声
桜澤 那水咲
第0話 プロローグ
真っ白い世界、それは区切りの無い場所だった。その場にねっ転がっていた私は白い空の輝きに目を覚ました。
体を起き上がらせると自分の身体に目を向けた。手や足を動かしながらリアルの世界であると思い知る。
体は小さくて白いワンピースを着ている。どうやら子供のようだ。視界に映ったセミロングの髪は真っ黒だった。
自分で自分に驚きながら困惑している時だった。コツン、コツンと響きの良い足音がして幼い私の視界に一人の男が立っていた。
その顔立ちは整っていて、綺麗だった。
全体的に見て白いイメージをただよわせている彼はニッコリと微笑んでいる。
「貴方は、誰ですか…。」
勇気を出して言った言葉はとてもか弱くて、まるで小動物のようだった。
私の質問に対して彼は笑顔を深くさせると優しい声を発した。
「僕は白い神だよ。」
やはりそうかと言う期待を裏切らない返答だった。だが安心感を感じる言葉でとあって私は固まっていた肩から力を抜く。
「君は何で死んだのか覚えてるかい?」
私は死んでるの?
確かにこんな所にいるから死んでるか。
これが一般的に死後の世界と言う場所なのだろう。
「分からない。」
自然と暗い声になりながら答えた。
それにしても、真っ白い世界なら死後の世界って楽しくないだろうな、見事に何も無い。
ーーやっぱり覚えて無いよね。そんな君に一つお願いがあるんだ。ーー
願い?
光の神は私にそう言うと地面にしゃがんで片膝をついた。近くまで来たせいで少し照れながら、目の前にある彼の瞳と目が合って私は支配されそうになった。
この綺麗な瞳はまるで、私の心の中を見透かしている気がする。
その瞳だけにどれだけの力があるのだろう。
「この世界を支配して欲しい。」
その言葉に私は目を見開いた。
「何故、そんなことを…」
神の意味不明な言葉に私は驚きを隠せないままで警戒すると、彼は私の頰に綺麗な手を当てて包み込んで来た。
「僕はね、欲に溺れていく愚かでつまらない人間達を滅ぼしたくなった。でもね、私は彼等にも変わるきっかけを与えたいと思っている。」
「私はただ人間を支配すれば良いのですか?」
シンプルな質問をすると彼は立ち上がって頷いた。
「そうだよ。過去に何回か君と同じように送り込んだ子がいたんだけど、結局使命を果たしきれなかったんだ。だから君には最後の審判者としてチャンスを与えようと思ってるんだ。」
この時の彼の瞳は一瞬だけ冷たくなった気がする。同時にこの人は優しい人かも知れないがどこか恐ろしい人だとも思った。
「どうかな?僕の願いを聞いてくれる?」
その問いかけに私は直ぐに答えることは出来なかった。下を向いたままで動こうとしなかった。そんな様子の私を見て彼は私の腕を掴んで立たせた。その反動によってようやく顔を上げる。
気づいた時には私は彼に抱きしめられていた。
「君が使命を果たし時は、君の一番の望みである永劫の自由を与えると約束しよう。その時には僕もずっと一緒にいるから。」
耳元に 甘く囁かれて何処か懐かしさと悲しさを感じながら私の視界はだんだんと真っ暗になっていった。
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