オレ、マジ天使たちを篭絡しないといけないらしい

スーザン

第1話 俺の妹はビッチだ!

 眩しく感じる程、全面真っ白な世界。そこに俺はいた。


『お前にはやるべき事がある』


 顔のない小さな男の子が俺に話しかける。身長を見る限りでは、だいたい四歳ぐらいだろうか?


『やるべき事……?』

『そう、四大天使を集めよ。さすれば、お前が失った過去の記憶は全て取り戻せる』


 俺には四歳以前の記憶がない。もし四大天使を集める事が出来たら、それを取り戻せるだって?それが本当ならマジで助かる。知らない事があるのは気持ち悪いしな。


『一つだけ訊かせてくれ』

『それは許可できない。訊きたい事があるなら一人目の天使を籠絡せよ。さすれば答えてやる。じゃあ、おはようだ。目を覚ませ』


「……はっ」


 ――何だ今の夢は……





 唐突で申し訳ないが俺の妹はビッチだ。


 彼女は16歳であるにも関わらず、今まで20を超える人と付き合ってきた。そして今も彼氏がいる、らしい。


 確かに俺の妹は可愛い。それは兄である俺から見ても分かる。


 いつも一緒にいると、どれだけ可愛いのかという感覚がなくなるって話だが、その感覚を撥ね退けるぐらい可愛い。


 一応、言っておくが俺はシスコンじゃないぞ?


 そんな妹に比べ、俺は真面目である。眼鏡だし、成績もそれなりに優秀だし、親に逆らった事すら一度もない。いつも親と喧嘩をしている妹とは正反対だ。


【俺の妹はそれぐらい最悪なんだよ】


 一度も会った事のない、ネット上で知り合い、付き合う事になった彼女にそんな愚痴をチャットで漏らす。


【そうなんだ。そんな妹欲しくないなあ……】

【だろ?】

【あたしにも兄がいるんだけど、そいつも最悪でさあ。地味だし、キモイし!】

【アハハッ!そりゃあ最悪だ】

【でも兄が嫌いってわけじゃないよ?逆に好きだし。小さい頃なんて本気で兄のお嫁さんになりたいとか思ってたし】

【へぇー、意外とブラコンだったんだぁ。なんか嫉妬しちゃうな】

【大丈夫大丈夫!今はドラゴンの事が大好きで結婚したいと思ってるし(////)】


「ぐはぁっ!?」


 彼女であるクラリスの萌え発言に不覚にも吐血しそうになる。というか軽く吐血した。


 いくらネットで知り合って一度も会った事のない彼女だとしても、これは萌える。とにかく結婚したい。となると、前々から抱いていた思いを伝えるしかない。


【あのさ、ちょっと真剣な話してもいい?】

【ん?なあに?】

【これから会ってみない?】


 一度打ち込んで、それを書き込む事に躊躇ためらいを覚える。しかし思い切ってエンターキーを押した。


 それから数秒、だが俺には何時間にも思える長い沈黙が訪れる。そして……


【うん、いいよ!】


「っしゃ!!」


 万歳をするかのように両手の拳を天に突き上げる。


【じゃあ一時間後、葛城駅前の噴水広場で!】

【うん!分かった!】


 そこでクラリスはチャットを退室する。


「…………はっ」


 ――待て、いくら勢いで言ってしまったとはいえ、いきなり過ぎないか?相手にも事情と言うものがあるだろうが!それにもしクラリスが男とかだったらどうする?俺は彼を好きになれるのか!?それだけじゃない!もしクラリスが不細工だったらどうする!?いや、愛があるからそんなの関係ないか。でも……勢いが酷すぎる。だが行くしかない!


 ノートパソコンを折り畳み、深呼吸を数回繰り返すと――


「よし!会うぞ!!」


 取り敢えず着替えを開始する。


 ――彼女と会うんだ。思いっきりオシャレしないと恥ずかしい思いをするかもしれない。ここは思い付く限りのオシャレをするぞー!おー!!


 自慢ではないが、俺のファッションセンスはそれなりに良い。理由はデザイナーの母親が洋服を買って来てくれるからだ。それにこのファッションは自信のあるの組み合わせだから、これで会えばきっと恥をかく事はない。


 ――次はアクセサリーか……これは幼馴染が買ってくれた、シルバーの指輪が飾られたネックレスを着けるとしよう。で、左の手首にはピンクゴールドの時計を着けて、これで完了だ。


「フンフフーン♪」


 鼻歌を歌いながら自部屋のドアを開ける。それと同時に隣の妹『宮平みやひらキラ』の部屋のドアも開いた。


 キラはハイセンスなプリントが付いた白のノースリーブの上に、濃緑色のジャケットを着て、下は黒のスキニーを穿き、右手にはいかにも高そうなピンクの腕時計、首にはピンクダイヤの付いた鎖が金で出来ているネックレスを着けていた。それプラスふわふわロングの茶髪と来たら目立つことこの上ない。


 ――うわぁー、派手ぇー……


 しかしさすがビッチというべきか、堂々としている。


「…………くたばれ」


 虫けらを見るような目でそう言うとキラは階段を下りて行った。そして玄関のドアが開いて閉まる音が聞こえる。


「兄に向かって『くたばれ』はないだろ『くたばれ』は」


 さすが思春期+反抗期だ。


「それより早く行かないと!」





 待ち合わせ場所に到着した。しかし俺の隣には妹がいる。


 ——何故だ!?何故妹君がここにいる!?


「あんた何でこんな所にいるのよ?」

「あ?待ち合わせに決まってるだろ。お前こそ何でこんな所にいるんだよ?」

「はあ?あんたには関係ないでしょ」


 ――ですよねー。俺の件もコイツには関係ないし。てかコイツどっかに行かないかな。彼女に妹を会わせるとか恥ずかしいにも程があるんだけど……取り敢えず場所をちょっとだけ変えてもらおう。


 そう思った瞬間、ケータイがメールの着信を知らせる。


【もう待ち合わせ場所に着いているんだけど、場所を駅前の改札口に変更してもいい?】


 ――ラッキー!


【OK!今すぐ行く!】


 ――さて、移動するとしよう。


 俺が動くと同時にキラも移動を開始する……俺と同じ場所に。


「何でついて来るのよ!」

「それはこっちのセリフだ!!」

「あー、もう!」


 キラは手提げカバンからケータイを取り出し、画面を操作し始めた。そして終わると、ため息を吐く。直後俺のケータイにメールが来た。


【ごめん、また場所変更でお願い!今度はまた噴水前で!】


 ――よし!またもやラッキーだ!


【分かった!】


 そして俺と同時にキラも噴水前へ移動する。


【ごめん!改札前で!】


 俺が移動すると同時にキラも改札前に移動する。


【本当に何度もごめん!噴水前で!】


 また。


【改札前!】


 またまた。


【噴水前!】


 またまたまた。


「はあ…はあ…な、何で付いて来るのよ……!」

「お…俺は人と待ち合わせを……はあ……それで場所が色々と変わって…はあ……」

「あ、あたしも同じよ!」


 ――コイツもか……ん?コイツも同じ?場所が色々と変わって……?普通、こんなに待ち合わせ場所がリンクするわけがない。となると――まさか!?


「まさか!?」


 キラも同じ考えに至ったのか、そう言って目をひん剥きこちらを見た。そして……


「お前、クラリスか……?」

「あんたがドラゴン……?」

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