元貴族からの期待を胸に

 「……」



 軽蔑、嘲り、同情様々な視線たちを背中に感じながらギルドから出た。


 あの場から逃げるようにして足早だったが、それでも出口への道が長く感じた。

 それほど俺は、登録時から今日まであの場を利用してきて、ギルドという場所を無意識に苦手になっているのだろう。

 

 因みに、何で俺の悪い噂だけが先行している理由は分からないままだ。


 誰かが俺に何か因縁を持っている、或いは俺の普段からの振る舞いの何処かに悪い箇所があったのだろう。

 とにかく、見覚えはない。しかしこうして冒険者稼業は続けられて来ているので、悪名や悪評が広がっていても問題はないと考えている。


 (……でも)


 もう、抑えきれなかった。


 「……何なんだよっ」


 メインストリートを一人歩いている途中で、人目を気にせずに、少々震えた声で呟いてしまったその言葉。


 当然、いつものように一人だから誰も答えてくれない。そんな事実が今は何よりも、心が痛んだ。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 ギルドから、普段より足早に出ていってしまった一人の冒険者の背中を、受付嬢の彼女達は不安げに見送った。


 (エーデルさん……)


 そして、そんな彼女達の中でも人一倍に悲壮な表情を見え隠れさせている受付嬢──リーアの存在もあった。

 

 「……」


 空気が重苦しくなる。その原因は、この場にいた人ならば一目瞭然だろう。

 

 それは、このギルドに登録して三年になる冒険者エーデルに対する他の冒険者達の対応にあった。

 非常に悪質で陰険なものであり、ギルドで度々開かれる職員会議で問題として挙げられるぐらいなものになっていた。

 根の葉もない悪評から、エーデルからのパーティ参加の拒否まで多岐に渡るが、これまでで一番酷いと思ったものがある。


 それはいつも通りエーデルの依頼が終わり、ギルドへリーアから報酬金を貰いに来たときだった。普段から態度が悪く、周囲から疎まれていた柄の悪い冒険者の四人が依頼で大量の薬草等が入った袋を両手で運んできたエーデルの肩に、なんと故意に当たりにいき、崩した体勢と共に出てきてしまった薬草の多くを避けようともせず踏みにじるようにしてそのまま逃走したのだ。

 流石のリーアもあのとき青筋を立てるくらいに苛ついたが、エーデルは逆に怒りもせずに苦笑しながらリーアを宥めたのだ。

 エーデルの穏便な対応により、その場は一旦落ち着いたのだが、リーアとその状況を目撃していた職員達は納得いかず、その日の内に事の顛末を幹部に報告すると、ギルドも流石にこの件は看過できないとした。

 その後、専属の冒険者達に探させてその四人は低ランクだったので呆気なく捕縛した。

 

 早速、あの時に対応できなかった謝罪文と共に拘束した四人をエーデルの元に引き連れて報告に行ったのだが、エーデルからは『謝っていただければ別に気にしませんよ。というか、こういうことはいつものことですので、その度に迷惑をかけて申し訳ありません。今度から気を付けますね』と逆に謝られてしまうという予想外な事態が起きてしまった。


 流石に人が良すぎると当時は思った。

 ギルドマスターだけではなく多くの職員達、そしてリーア自身もエーデルに『訴えるべきだ』と問い詰めたが、被害者であるエーデルが首を振り続けたので、結局加害者である四人は罪に問われることはなく、登録抹消だけでその事件自体も済んでしまったのだ。


 そんなことも相まって、嫌がらせも悪化してきてしまった。それでもエーデルは今日まで気にしてる素振りも見せることはなく、淡々と依頼を達成しに来るので、ギルド側も対処できない状況が続いている。


 詳しく言えば、本人からの意思があれば、即刻他のギルドへエーデルを斡旋出来るのだ。しかし、本人からの意思がないと、そんな行動も余計な節介となってしまい、最悪他ギルドへの移籍を強制させたとして、こちら側が罪に問われてしまう可能性がある。なので対処が出来ない。


 ギルド側としては、雑用依頼を必ず達成してきてくれているエーデルのことをこのまま引き留めたい気持ちもあるが、登録してからこれまで不調気味だったギルド本部へ様々な恩恵を与えてきてくれたので、もう頭が上がりきらないぐらいに感謝しているという節がある。なので周囲に恩恵を与えてくれるその能力を素直に称賛してくれる場所で伸び伸びと発揮して欲しい気持ちの方が大きい。


 エーデルのお陰で、近年荒くれ者の印象があった冒険者という職業を、何でも屋という名誉ある職業へと人々の印象改革が起こっているのだ。それによりギルド本部の信用が上がり、落ち込み気味だった依頼数を元のところまで復調した。


 しかも現在、冒険するのみではなく、真面目で雑用依頼をこなしてくれる『何でも屋』の意識を持った新人が多くなってきているのも、エーデルの活躍による副産物だと思われるし、信用が上がった結果で依頼数が上がり、それにより職員達の給料も上がって余裕のある生活が出来るようになっているのも事実だ。


 日々、一人で汗水を垂らして地道に人々からの雑用依頼をこなし、ここ数年最低だった信用を三年で復活させ、周囲に多大な恩恵を及ぼしたような、そんな素晴らしい冒険者だというのに、帰れば酷い風評被害、罵倒、陰口等の仕打ちを受けているのだ。


 Sランク相当に値する貢献を果たした、そんな冒険者に。


 (……有り得ない。間違ってる)


 リーアは密かに思う。


 ──ふざけるな、と。


 先程の光景を傍観していた他の職員達も、同様にそう思っていることだろう。


 誰が今日まで、堕ちていた冒険者という職業の誇りを取り戻させた?


 誰が今日まで、他のギルドに流れていた人々の信用を勝ち取ってきた?


 討伐依頼だけをバカみたいな数をこなして自慢してくる癖に、雑用依頼だけをしている人をバカにするなんて、何様のつもりだ。


 誰よりも誠実に生きてきた人の内面も知らないでここまで愚弄するのか。


 「……っ」


 「あ、あの……リーア先輩」


 隣で、彼女の表情を窺いながら気まずそうに名を呼んだ、新人のリンネ。

  

 リンネは隣のリーアのこれまでに見たことがない程に冷たい表情を見て、未だにエーデルに対する根の葉もない悪評を嘲笑いながら話している冒険者達に声を張り上げないかと心配に思ったが、リンネの呼ぶ声にリーアは「……ごめん。分かってるから、心配しないで」と、直ぐに冒険者対応する時に作る微笑を向けてきた。


 「……そうですか」


 「さっさと仕事を終わらせてしまいましょう。……今日は、早く飲みたい気分なの」


 「……」


 勿論、新人であるリンネも、この状況に酷く怒りを覚えていた。だがここでエーデルを擁護してしまうと、この状況がもっと悪化してしまう可能性を考えて、リーアと同様にこの場は開きたい口を閉じている。

 リーアも同じことを考えているので、多分リンネに呼ばれなくても言わんとしていたことを抑え込んでいただろう。 


 「「「…………──」」」


 エーデルに対しての陰口が反響する中で、停滞していた時間を動かすようにギルド本部の職員達はそれぞれの業務を再開させた。


 「……次の方。どうぞ──」

 「……はい。このご依頼ですね──」

 「……では、こちらが報酬になります。確認をお願いします──」


 二人して、いやこの場に居る職員全員、怒りを抑えこんで、エーデルに対し先程まで陰口を叩いていた冒険者達に対応する。


 仕事に感情を持ち込んではならない。これは、ギルドに所属している職員の中での鉄則であり、仕事をする上での基本中の基本となる決まりである。


 たとえ、自分達が尊敬している人を罵ってた人だとしても。


 たとえ、自分を助けてくれた恩人を嘲笑った人だとしても


 そしてたとえ、意中の人を貶した人だとしても。


 それらが全て仕事上対応しなければならない相手だったのなら、感情をぶつけず敬意を持って接しなければならないのだ。



 (ごめんなさいエーデルさん。私は……私はあなたを守れません)


 「──ようこそ。冒険者ギルド本部へ。ご用件は何でしょうか?」


 受付嬢の立場上、エーデルを擁護できないリーアは、自分の無力さを心中で嘆きながら、そんな無力な自分に嫌悪しながらも、長年対応してきた笑顔で冒険者と接していく。今日も、そしてこれからも。


 願わくば、あの人の隣に信頼出来る方が出来ますように。

 

 職員一同、業務しながらも、心なかでそう願った。 






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆









 「御免下さい」


 ギルドのある南区からメインストリートを通って数十分歩いて着いたこじんまりとした住宅街。そこから又数分の道を歩いて右側へ振り向くと、そこには二階建ての少し裕福そうな民家があった。


 (良い家だな)


 基本的に木を中心な素材としており、屋根や柱は頑丈な焼石を使用しているらしい。


 そして今、俺は依頼人の家に訪れている。この家には、今日受けることになった修繕の依頼を依頼した人が住んでいるらしい


 名前はイスファールさんというらしく、依頼書によると四人の核家族とのこと。


 見た感じ普通の家族で、普通の家だ。

 そして、今パッと見て、肝心の修繕依頼の箇所である屋根の方は正面から見た感じ必要では無さそうだった。

 

 (まぁ、多分だけど、修繕依頼は屋根だから、煙突ら辺だろうな。あそこ家が老朽化してくると特に崩れやすい箇所らしいし。理由は分からないけど、大体の修繕依頼が老朽化してきてる家の煙突ら辺の屋根の修理だったからな)


 これまでの経験則から予想を立てながら、家の人が出てくるのを待っていると、目の前の扉が開く。 


 「はーい! ……え?」


 扉を開けたのは、栗色の髪を一つに結わえ、穏和そうな藍色の瞳をした主婦だった。服装は如何にも家事の途中だったみたいで、黒色の平民服に橙色のスカートと、見た限り随分使い古されてるようなエプロンを着用している。


 そんな本当に主婦なのかと思えてしまう美人が、今俺の顔を見た瞬間明らかに怯えて一歩下がったのだ。


 確かに無精髭生やしてるし、体格も元軍人だけあるので大きい方だ。扉を開けた先にそんな男が居れば恐いだろうし、そんな避けるような反応も慣れてるので気にはしなかったが、やはり心の何処かではそんな慣れている反応に対し痛みを感じてしまう。


 (……)


 「突然すみません。あの、ギルド本部へお宅の屋根の修繕依頼とかしませんでしたか?」


 「あ、ああ! はい。確かに依頼しましたけど……もしかして」


 「はい。俺はエーデルといいます。こちらの依頼書を見て頂けると分かりますが、イスファールさんの依頼を受注して来ました」


 そう言ってエーデルは依頼書を主婦に手渡すと「……はい。確認しました! この度は本当にありがとうございます。ささ、中へ入ってくださいな」と礼をされて、中へ案内された。


 これは予想外だった。何故ならこれまで幾ら礼は言われようとも、家に上げられることはなかったからだ。


 拍子抜けしながらも荷物を置かせて貰い、椅子に座らされると、イスファールさんは手早く紅茶を出してくれた。


 「あの……お構い無く」


 「いえいえ! もてなさせてくださいまし。貴重なお時間をこんな雑用依頼に割けてくださったお方ですもの。もてなさない訳にはいかないですよ」


 「あ、はい。あの。ありがとうございます」


 (新鮮だな。人からもてなされるのって)

 

 おどおどとカップを手に持って啜る。


 (……美味い。しかもこの紅茶、高価なものだ)


 過去に何度か城で紅茶を飲んだ記憶が甦った。




 ──周囲には綺麗な花畑と、空には清々しい程の快晴が広がっているそんな日の城内のバルコニー。俺はあの時給仕から出された紅茶が人生で初めてだった。それで恐る恐る口にすると、ただただ美味く、温かかったのだ。そんな俺を見て、目の前で紅茶を片手に可笑しそうに微笑を浮かべるパスラが居て……







 (……っ)


 美味くて半分まで飲みきったものの、何故かそれ以上は進まなかった。無駄な記憶をぶり返した自業自得だ。


 止めよう。女々しいだけだ。


 (クソ……)


 頭痛がする。胸が痛む。呼吸もなんだか苦しい。


 (……今は依頼だ。依頼をこなそう)

 

 乱れそうな心を抑え込み「……美味いですね。お上手です」とイスファールさんに告げると笑顔で応えてくれた。


 「あら。ありがとうございます。あ、名前を告げてませんでしたね。申し遅れました。わたくしはリリアナ・イスファールと申します。一応、過去は貴族の立場だったのですが特別な事情で今は平民となっています。なので気遣いは無用ですので、気軽にリリアナとお呼び下さい」


 「はい……は? えっと。え? どういうことですか?」


 「すみません。ですが、こういうややこしいことは最初に話していた方が良いと思いまして。後々言われたりしたらそれはそれで困るでしょうから」


 「……」


 (早々凄い告白されたけど……まぁ仕事する上では支障はないし。大丈夫だろう)


 「えっと……少々思考が追い付かないですが、一応分かりました」


 「そうですか。よかったです」


 目の前で笑顔を浮かべる美しい主婦に向かって思ってしまう。


 (いや、良くはない)


 仕事には支障はないが、心持ちとかの方に貴族という単語は悪い。不敬罪にならないように気を付けなければ犯罪者になってしまう。先程特別な事情で平民となっていると言っていたが本当なんだろうか。


 言葉遣いや立ち振舞い、高価な紅茶を唯の冒険者にもてなす度量から元は貴族だということは事実だろう。 


 ここまで圧倒されているが、咳払いして気持ちを入れ替え、依頼内容の詳細についてリリアナさんと話し合うため、俺は口火を切った。


 「では、先ず屋根の何処が修理が必要か案内してくれませんか?」


 

 







 



 「──なるほど。やっぱり煙突周辺でしたか」


 二階の屋根裏まで来て、問題の修理してほしい箇所へ案内されると、予想通りに煙突周辺の屋根に子供一人分の穴がポッカリと空いていた。


 「……? エーデルさん。やっぱりとはもしかして私達の家以外にも……」


 さも俺が予想していたような口振りに不思議に思ったリリアナさんがそう質問してきた。


 「そうですね。リリアナさんの家と同じような二階建ての老朽化してきた家に、良くこれまでにこのような穴が気付いたら空いていたと修理を依頼してくる人が居ました」


 「そうでしたか……私もそうなんですよ。見つけたのは四日前で、洗濯物を取り込もうとした時、屋根裏から風がヒューヒューという流れ込んでくる音が聞こえてきたのです。まさかと思って覗いてみたら案の定穴が空いてましたわ。それはもう、本当に気付いたらああでしたの」


 「そうですか。やはり今回も同じような感じですね。流石に同じような依頼が多いのでこの頃捜査し始めたんですけど」


 「何か掴めましたか?」


 「……いえ。まだ何も。家の構造に問題があるのかと思って、家を建築した建築士に図を見せてもらったんですが特に問題もありませんでした。一応、今回もこの家を担当した建築士に図を見せてもらうつもりですが、対した成果は得られないかと」


 「……そうですか。分かりました」


 「はい。申し訳ありません」


 「──では、今回はこの原因の捜査を重点的に行ってくださいまし」


 「……え?」


 先程の貴族だという告白の如く、又々突然の提案により腑抜けた声で応えてしまう。


 当の本人はそんな俺の反応を気にかけず、次には理由を挙げてきた。


 「勿論。修理も並行して頂きますわよ? ですがあくまでそれは二の次で構いません。主にこの原因不明な穴の正体をどうかこの被害が他のご家庭に無くなるように、私の家で色々な試行錯誤をしていただいて、見事掴み取って下さいまし」


 「で、ですがリリアナさんは良くてもご家族の方々からの了承は?」


 「それは大丈夫でしょう。何せ、私の夫は白騎士ですし、長女は王立士官学校に通ってますし、次女に至っては王立魔術学校に飛び級で通ってますから。これを上げた通り全員正義感に満ちてますわ。出来るだけ人の役に立つことは私を含め、家族全員の目標としてますの。……それと、逆にお聞きしますが、これくらいの穴を直ぐ修理するよりも、再発防止のために活用していただいた方が余程有意義ではなくて?」


 「……確かにそうですね」


 (しかも家族全員がエリートって)


 リリアナさんの正論と凄すぎる家族事情に圧倒される。


 白騎士。リリアナさんの夫が就いてるらしいその職業は、全ての騎士が目指す目標とも言ってもいい名誉職だ。

 主に王室を護衛する近衛を任務としており、立場など一切関係なく完全に実力で選ばれた騎士でしか構成されない『白の騎士団』という王室直轄精鋭軍団の一員に白騎士という称号が贈られるのだ。

 そんな人がこの人の夫。驚きを禁じ得ない。

 余談だが今、そこの部隊に現状王国最強の騎士が居るらしい。世間では『白銀の戦乙女ホワイトヴァルキリー』の称号で呼ばれているらしい。


 (……絶対あいつだよな)


 しかし、俺はその最強の騎士に心当たりがあった。

 当時、俺が指揮していた部隊があり、そして、確か戦場を越えている内に完全に俺の右腕と化していた優秀な女騎士が居たことを思い出す。名前は確か、ジャンヌ・イリシア。入隊当初、俺を何故か開口一番に「先生」と呼んだ面白い奴で、訓練の合間もしくは夜営時に良く俺に指導を求めてきた真面目な奴でもある。そして、一番遅く入隊してきたにも関わらずに、誰よりも早く上達し多くの戦果を積み上げて行った強い奴でもあった。

 だが結構抜けているところが多い。

 例えば、ある日の早朝に寝惚けて食堂へ入ってきたジャンヌだったが、覚束ない足取りのまま端っこの席に座っていた俺の元へ行こうとした結果、途中に柱へ思い切り顔面をぶつけて、静かに顔を両手で抑えて悶絶したのだ。しかもその後、それではっきり目覚めたのか、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら静かに料理を手にとって足早に俺の元へ来たもんだから、その時は部隊の奴等と一緒に爆笑したものだ。普段から素っ気なくて固い感じだったのだが、こうして思い返してみれば可愛い乙女が背伸びしてるようにしか思えないから更に面白い奴だと思える。


 (元気にしてるかな。あいつ)


 思い出すと、結構会ってみたい人物だが、俺が軍から去った日のジャンヌのあの表情を思うと、やはり会えない人物だと思い直す。


 昔話は置いておいて、リリアナさんの長女と次女も凄い。


 何故なら、長女の方は競争率の高さと超難関と言われる試験を受からなければ入学出来ない軍の士官を目指す上で必ず通らなければいけない王立士官学校に通い、次女の方は競争率が高い上に士官学校よりも難問が羅列する試験を受からなければ入学出来ない魔術学校、しかも飛び級で受かったらしいのだから天才と呼ばざるを得ない。


 それに加え、このリリアナさんは貴族の令嬢らしいのだから、イスファール家は名家とも言っても過言ではない。


 そんな名家に依頼である修理を二の次にして原因の捜査を重点的にしろと言われれば断れないし、これまで本格的な捜査に乗り出せなかった俺の身からしても、歓迎すべき提案であることに違いはないだろう。


 「では、有り難く。必ず原因を突き止めてみせます」


 頭を下げた俺に、リリアナさんは貴族の威厳を纏った期待を言葉にした。


 「私にこの不可解な現象の原因を、見事に突き止めて見せなさい」


 




 「──はい!」




 今日の依頼が始まった。

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