十話『いつも通りの 朝』
――― …
… … …。
カーテン越しに太陽の光が見える。眩しいので俺はいつもカーテンは開かないが、今日ばかりは確認しておきたかった。
俺はカーテンを開けて、窓を開けて外の空気を部屋の中に入れる。秋も深まり、肌寒さを感じた。
朝だ。いつも通りの、朝だ。
夢の内容はしっかりと覚えていた。夢現世界、ムークラウド、僧侶、時計塔広場、スライミー、魔王軍の侵攻…。キーワードを幾つも頭の中で
紛れもなくアレは、現実に見た夢だった。
夢というのは見て10秒ほどしか記憶として留まる事ができない、とどこかで聞いたことがある。しかし起きてからもう5分以上、俺は窓から外の景色をぼんやり見ているのに夢の事はしっかりと記憶している。
そして、重大な事実もしっかりと覚えている自分に安心と不安を感じた。
これから毎晩、夢現世界に入って冒険をするという事。
そして俺は僧侶という職業を選択してしまったという事。
夢の中で敬一郎と出会ったという事。そして…
三日後に『イベント』として、魔王軍がムークラウドの街に侵攻してくる。俺達はレベルを上げて街を守る。
推奨レベルは… 10。
「… … …」
身体は疲れを覚えていない。少なくとも眠って、休息はとれていたようだった。もっとも…精神的な疲労は感じるが。
これから毎日、こんな生活を…。
一人で考えていても仕方のないことだ。
今はとにかく、情報を共有しておきたい。
俺はさっさと着替えて学校に行くことにした。
――― …
「昨日みた夢?」
宮野沙也加は首を傾げて俺の方を見た。
夢現世界で出会ったシャーナとは、やっぱり似ている。というか、どう見ても本人だ。つまりは宮野さんもあの世界に呼び出されていたと考えるのがいいだろう。
夢の中で会ってあんな風に会話して…なんだか現実と入り混じって変にドギマギしてしまうのを何とか抑えながら、俺は宮野さんに夢の事を聞いてみた。
「そう。なんでもいいから覚えてたりしない?」
「変な事聞くね、名雲くん。なにかあったの?」
「い、いや…ちょっと最近、夢占いにハマっててさ。試しに人の夢で占ってみたいなー…とか」
適当に誤魔化したが、宮野さんはノッてくれたようだ。こちらに椅子を向けて目を輝かせている。
「夢占い!?私占い好きなんだよねー!え、名雲くんがやってくれるの!?面白そう!」
「は、ははは… えーと、それで、どんな夢見たの…?」
「… … …」
宮野さんは顎に手を当てて俯き、むむむ…と唸っている。
少し考えた後。
「… 覚えてない…」
「ああ…」
やっぱりか。プレイヤー以外は夢の記憶がないらしい。
「でも変な夢だったのかもね。普通なら、楽しい、とか悲しい、とか夢がどういう内容だったか感情だけでも覚えてる事が多いでしょ?なのに、本当に何も覚えてないなんて…」
「あー、まぁ…忘れてるんなら仕方ないよ」
「ごめんね名雲くん。せっかく名雲くんから話し掛けてくれたのに」
「え?」
「だっていつも私から声かけてたでしょ?初めてじゃない?隣の席なのに、名雲くんから話し掛けてくれたの。なんだか嬉しいな」
「… … …」
惚れてしまうだろ。
って、いやいや。夢でも現実でも、二重にときめいてどうする。今の俺はそんな恋愛イベントに
「またの機会によろしくね、宮野さん」
「うん。楽しみにしてるね」
宮野沙也加の笑顔に三重に惚れてしまいそうになるのを必死に抑えて、俺は席を前に向けた。
丁度そのタイミングで安田先生が教室に入ってくる。
「揃ってるかー。出席とるぞー」
…安田先生。…夢では、キオ。僧侶である俺の師匠、か。先生とも長い付き合いになりそうだな。
「…ん?珍しいな、名雲。えらく真面目そうな顔で先生の顔見て。勉強する気にでもなったか?」
「あ、いえ、違います」
「そこは嘘でもハイと言いなさい。まったく」
安田先生の言葉にクラスのみんなが笑った。俺は恥ずかしくなって頭を掻いて視線を窓の外に向ける。
「さ、それじゃあ出席とるぞー」
こうして、特に何も収穫なく学校のいつもの時間は過ぎ去っていった。
あとは…放課後。うまく敬一郎に会えるといいけど…。
今日は部室にちゃんといるだろうな、アイツ。俺は放課後をひたすら待った。
――― …
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます