大いなる虚弱

@Evans

第1話 発覚


 発覚したのは俺が吉田という女子アルバイトの目を見つめ、何か特別な感覚が降りてきたと自覚したその時だった。俺は吉田の目を凝視し、その奥の箱の鍵を開いて抱き寄せるようなイメージを脳内に浮かべた。結果がどうなるか分からなかったし、自分自身でその行為の意味が分からなかったからそれは飽くまで結果的にという事になるが、結果的に吉田は俺の事がを好きになったらしかった。

 それは明らかに特別な感覚だった。自分の鼓動が高鳴り、何かがこれから変わっていくというような予感を内側からひしひしと感じとった。それは確かな感触だったから、実験をする動機になった。


 目を見るだけで良いらしい。だから実験は容易だった。コンビニの女店員でも良いし、なんならナースだって良い、女なら誰でも実験可能だ。すぐに結果が欲しかったから俺は思い切って道端で直接女に話しかけた。この辺にある駅が存在するか訊いた時、目の前のカーディガンを羽織った女の目を見つめ更にその奥をある感覚を持って覗き込んだ。女は明らかに様子を変え、上手く話せないほど動揺したから、半分はそれで確定したようなものだった。

 もちろん念を入れてもう一度実験した。三軒目のコンビニに女店員がいた。忙しなく興奮冷めやらぬ心持ちで、俺はそのレジの女店員の前まで何も考えずに歩いていった。ショートヘアでメガネを掛けた地味な女だ。かなり浮かれていたのか、俺はやけに自信に満ちた顔つきで適当に道の事を訪ねた。思った通り女は顔を赤くし、思考が鈍ったようにぼんやりとした様子を見せ、その時完全に俺は自覚した。

 何故かは分からない。だが特別な能力を俺は手に入れたのだ。


 その夜、真っ直ぐ家に帰れる程冷静でいられる筈はなく、一時間は興奮したまま夜道を歩き続け、その挙げ句俺は綺麗な一人の年上の女をナンパした。

 歩きながら俺の頭は酷い興奮と混乱を行き来しながら、速く回転し続けた。その思考は収拾がついていなかった。だれとでもセックスできるかもしれない事、仕事をしなくても飯を食っていけるかもしれない事、世界中の美女だって自分の物にできるかもしれない事。ただそれは飽くまで可能性の事だし、他に如何なる可能性がそこに含まれているのかも分からない。例えば明日には能力が無くなるのかも知れない、もっと言えばそもそもこれが現実じゃないのかも知れない。そんな風に俺の頭の中は酷く混乱していた。

 もっとも途中で適当に女を引っ掛けても良かったが、せっかくリスクを犯すのであれば見返りがもっと欲しいという考えから中々女

に手を出せなかった。ただそこにある可能性の事について考える度、俺の頭はどうにかなってしまいそうな程に舞い上がって落ち着かなかった。女が側を通る度、すぐに手を出してしまいたい欲求を故意的に抑えた。比較的美人に見えた女が前から歩いてきた時、俺は決心した。こいつを俺の物にするんだ。

 本来なら絶対に声をかけたくないような類の女だった。髪は茶髪でメイクが入念に施されている、高そうな黒の革のブーツを履き、手元にはこれも高そうな同じ黒いの革のバッグ。男を数字で判断し、且つ、自分に都合が良いか慎重に見定める。恋愛は単なる心の

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