第二話「同僚」
転移陣のある丘を降り、市街地を歩く。
世界樹が照らす光で夜道も歩きやすい。
毎日光っているわけではなく、転移陣と同様に月に一回、魔力が溢れる時に光っているとのことだ。
街についてすぐ俺達は宿屋をとる。
転移陣が使える日は、当然森都を訪れる人も多いため、早目に宿屋をとっておかないと泊まる場所がなくなるのだ。
この世界に事前予約制度なんてものはない。
早い者勝ちだ。
ペット可といった宿は聞いたことがないので、青はぬいぐるみと言い張りごり押し。
ただ、予定外であったのは俺はラフィと同室をあてがわれたこと。
姉妹とでも思われたか。
いや、姉妹でなくても女同士であれば同室なのも当然かもしれない。
だが俺が元男であることを知っているラフィとは若干きまずい。
案内された部屋に荷物を置いても、無言であった。
なので会話の糸口を探して、話しかける。
「てっきりラフィの家に泊るのかと思った」
「う、うちにくるの」
ポツリと漏らした言葉に、目を見開き、予想外の反応をされる。
「お母さんに帰ってくること言ってなかったから、後日でなら……いいよ」
「いや、ラフィに迷惑かけそうだからいいよ」
「是非来て」
軽く言ったつもりであったが、何故か有無を言わさぬ雰囲気。
俺はコクコクと頷く。
まぁ、ラフィの実家というものにも興味があるのでこれはこれで楽しみだ。
宿を無事確保し、俺としてはこのまま夜の街を散策したかったのだが、今日は大人しく宿で食事をとり、身体を休ませることになる。
ラフィに「今日は人が多くてゆっくりできない」「子供が出歩く時間じゃない」と言われた。
この身体を活用し、頬を膨らませるといった抵抗も見せたが、さすがは勇者御一行のラフィ様には通用せず、寧ろ冷ややかな目で見られた。
やるんじゃなかった。
次の日。
俺達は街に繰り出していた。
ラフィの話していた通り、転移陣で森都を訪れた観光客も多いようで様々な種族が街を歩いている。
王都では何だかんだで圧倒的に人族が多いので、少し新鮮。
皆、はるか上に見える世界樹の枝葉を見上げながら。
俺は腕に、宿に置いておくわけにもいかないので青を抱きかかえていた。
「いいご身分だことで」
「飛んだら目立つから仕方なくだよ」
とのたまう。
加えて、エリーヌが従えている鳥型の魔物であればいいが、青の見た目では流石に鳥で誤魔化すのに無理がある。
街中に魔物がいたら騒ぎになるのは明白。
こちらでも目立ってしまっては森都まで来た目的の一つが失われてしまう。
結局、ついて来た青を抱っこするしかないのだ。
森都は王都より若干涼しいのが救いだ。
もふもふとした感触は素晴らしいが、もっと暑くなれば、抱えて歩くのは遠慮したい。
そんなことを考えていると、ふと、疑問に思うことがあった。
「この辺りって魔力が溢れているんだよな?」
「そう」
「どうして魔物が出現しないんだ?
それとも出現してるけど、騎士みたいなのが狩ってるの?」
後者は口には出したが、それはないと自分でも理解していた。
街の様子は至って平和。
そういった暴力を撒き散らす存在が日常と隣り合わせ、といった雰囲気はない。
俺は魔力溜まり、つまりは魔力が多く集まる場所から魔物が発生すると記憶していたが、その知識は誤りであり、他にも条件があるのかもしれない。
少し気になりラフィに尋ねずにはいられなかった。
「まさか。この街は世界樹の加護に守られている。
だから魔物は出現しない。そういう風に教えられてきた」
ラフィが教えてくれたものの、やや歯切れが悪い。
理由はすぐに理解する。
「その加護が何なのかは分からないからそんな表情をしてるわけか」
「……顔にでてた?」
「まぁな。俺とかアレクにしかわからない程度に。
いずれ、この世界樹の加護とやらもラフィは解き明かしたいのか?」
「当然」
聞くまでもなかった。
謎を謎のままにしておくのが気持ち悪い、それがラフィの性格だ。
「世界樹の前に俺のこの呪いの方を解明してほしいがな」
「……戻るつもりがあったの?」
やや心外な反応をされる。
「そりゃそうだろう。なんだかんだ男の方が気が楽だしな」
「……そう。ならよかった」
後半はラフィが何か言ったようだが上手く聞き取れなかった。
でも、今の俺の状況としては戻ったら戻ったでややこしいことになるのは間違いない。
剣聖が突然いなくなるわけだ。
(そのあたりは、この称号を下さった陛下が何とかしてくれるだろうが)
一番の問題はアニエスに何て説明すればいいのか、それに尽きる。
罪悪感がとんでもない。
結論としては、戻りたいとは思いつつも、暫くはこのまま平穏にだ。
「男と言えば、昨日のイケメン君。ラフィの知り合いって言ってたけど、どういう人なの?」
「ああ。彼はこの国の次期国王」
「へ?」
何気なく告げられた事実に間抜けな反応をしてしまう。
もっと軽い感じの知り合いと思っていたが、凄い人物であった。
「あとは元同僚とでも説明すればいい?」
「元同僚? いや、意味が分からない。え、ラフィもお姫様なの」
「そんなわけない」
大きな溜息をつかれた。
「魔術学園の元教授なのよ、彼は」
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