第三話「君臨する者」
魔術学園との名を冠す学園はこの世界に一つしかない。
それはユグドラシル魔術学園であり、魔術を研究する、世界最大の機関のことだ。
普段身近過ぎて忘れがちではあるが、目の前のラフィという少女は(少女という年齢は些か過ぎているかもしれないが、見た目が見た目なのであえて少女と言う)、魔術学園に最年少で教授の席を手にした天才中の天才だ。
出会ったばかりの頃は、ラフィの凄さは申し訳ないが俺には理解できていなかった。
しかし、多少なりとも魔術を齧った者であれば、いかにラフィが凄い人物であることか理解できるであろう。
そして魔術学園の教授であると聞いても、驚きはせず、「そうであろう」と納得するはずだ。
着目すべきは創造性。
この世界、魔術書に記されていない魔術というものは、一つだけでも飯の種になり得る。
それをラフィはいくつも持っている。
よく使わせてもらっている
俺は神様からのチートな能力のおかげで見た魔術は習得できるが、新たな魔術を生み出すという才能は一切ない。
唯一の例外は魔力量にものをいわせた浮遊術とでもいう魔術だが、スキル一覧には登録されていないところを見ると、魔術として、この世界のシステムに認められていないようだ。
「魔術学園の元教授で次期国王、おまけにイケメンとか、どれだけ恵まれてるんだ。
教授ってのも権力で買った席じゃないのか?」
そう思いたくもなるが、俺の言葉をラフィは否定する。
「魔術学園は実力主義。それに彼の実力は本物」
「ラフィが認めるなんて、相当だな」
「うん。魔術理論に関しては彼の右に出る者はいないと思う」
「へぇ」
そいつはすごい。
ラフィが手放しで魔術に関して賞賛を口にするのは初めて聞いたかもしれない。
「もう少し言うと、実力があるから次期国王に指名された」
「どういうことだ?」
「そのままの意味よ。この国では魔術に最も秀でた者が次期国王に選ばれるのよ」
ラフィの説明によると、ユグドラシル国の代表は世襲によるものではなく、完全実力主義。
最も魔術に優れた者が次期国王としての権利を得る。
学校で習った各国の知識を朧気に思い出す。
ユグドラシル国は強い指導者の下で長年の間栄えてきており、他国からの侵攻を受けた歴史がないと。
これは長耳族が非常に魔術に優れた種族であり、争いを好まぬ性格から他国の領土に対して興味がないため自国から仕掛けることもなければ、他国からしても喧嘩を吹っ掛けるべきでがない相手として認識されていることが大きい。
だが、俺は違和感を覚える。
「魔術で最も優秀って認められたのに、すぐには国王にならないんだな」
実力が認められているのであれば、そのまま国王になればいいのにと思ってしまう。
「すぐにはならない。なれないっていう方が正しいかも」
ラフィの言葉を聞いても首を傾げる。
「一度、国王になったら死ぬまでは交代しないってこと?」
「違う。例え次期国王に選ばれる実力があっても現在の女王様には到底及ばないの」
「そりゃまた……。じゃあ、一応はその女王様より優れているとなれば、レイとやらは今すぐにでも国王の座につくということになるのか」
「そう。だけどそれも起こり得ない」
「ラフィがそこまで言うか。レイってやつはラフィから見ても優秀なんだろう?」
「それでもよ。だいたいこの国の女王様もナオキと同じでちょっと規格外の存在だから」
「規格外ね……」
「この国の歴史書の最初から今までずっと同じ女王様が君臨してるのよ」
「……この国の歴史書っていつから?」
「おおよそ1000年前」
長耳族は長寿とはいっても、長く生きて300年くらいと聞いている。
健康に気をつかってもそこまで生きることは難しいであろう。
「……さすがに嘘だろ?」
同じ女王と信じられてはいるが、密かに代替りしているのではないかと疑ってしまう。
「私もちょっと信じられない。でも、長生きしている人に聞いても女王様は只一人、今も昔も間違いなくあの方だと言って疑わない」
「そもそもだ。
話を聞いてると、次期国王なんて選ぶ必要があるのかと思ってしまうんだが」
「何かあってからでは遅いから、という理由でいつからか次期国王を決めておくのが慣習化したらしい」
「つまり次期国王で国王になったやつは?」
「いない。一人も」
「……そりゃまた。絶望的な数字だことで」
その女王様とやらは話を聞く限り、相当すごい人物であることは伝わってくる。
(というか、そんな奴がいるなら俺をこっちの世界によばなくても
神様は世界で太刀打ちできる者がいないために、なにやら色々無理矢理俺を連れてきていたはずだ。
ちらりとラフィを窺う。
(でも、今のラフィなら俺がいなくても不死の王を倒せるだろうし、女王様よりも強いんじゃ?)
今更ながらレイとやらのレベルも見ておけばよかったと後悔。
ただ、根拠のない直感で言えばラフィの方が実力は上に思えた。
「どうやって、この国でナンバーワンの魔術師を決めてるか知らないけど、今ならラフィが一番なんじゃない?」
ラフィを見つめながら言う。
だが、俺の言葉をラフィは冗談と受け止めたようだ。
「……からかわないで」
「本心だよ」
「むっ。私の魔術を一回見ただけで使えるようになる人に言われても嫌味にしか聞こえない」
「これは実力っていうかズルみたいなもんだから誇れないがな……」
そんな話をしながら街を歩いていたら目的地にたどり着いた。
街で世界樹に最も近い場所だ。
改めてその大きさを実感する。
上を向いてもどこまで幹が広がっている。
此処まで来ると、幾重に重なり広がっている葉を頭上に見上げることができた。
葉は昨晩のように青く発光しているといったことはないが、それでも何か独特な雰囲気を放っていた。
近付き幹に触れてみたいという思いもあるが、残念ながら根本までは行けない。
魔物が周囲に出現せず、他国からの侵攻に脅かされたという過去がないため、森都の外周には外敵を備える壁は存在しないが、世界樹の周囲には、これ以上近付くことができないよう壁が築かれていた。
「世界樹を守るため。これ以上先に入るには許可がいる」
「けっこう厳重なんだな」
街中では見掛けなかった、武装した兵士が巡回していた。
不審者はいないか周囲に目を光らせている。
「この国の聖域だから」
とラフィは説明。
「あと世界樹で採れるものは金以上の価値があるから」
「……納得はできたが、後半の説明はなんだか色々台無しだよ」
俺の言葉にラフィは「そう?」と首を傾げた。
ラフィはどこまでも現実主義だ。
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