第二十九話「二つの案」
夕食時。
今日は隊商の面々が同じ焚火を囲んで座っていた。
理由は言うまでもない。
どうするか、今後の方針を話し合うためだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
礼を言いながら、まわってきた湯気がたちのぼる木製のカップを受け取る。
受け取ると、湯気に乗り、疲れが癒される茶葉の香りがほのかに鼻先をくすぐる。
いつも少し他の人とは離れた場所で陣取っていた俺とラフィも今日は焚火の輪に入っていた。
俺の隣にも冒険者の一人が座っている。
ここまでの旅路で、あまり冒険者とは絡んでいないため、残念ながら俺は顔を見ても名前はわからない。
わかることは、隣に座る少女が
アイデンティティでもある黒い鷹、確かシャドーホークと呼ばれる魔物が肩に大人しくとまっていた。
青がこの場には居ないためか、リラックスした様子で羽根を毛づくろいをしている。
ちなみに青は今頃、テントの中で丸まり、寝ていることだろう。
惰眠を貪る竜だ。
各自の手元に茶が入った木製のカップが行き渡ったことを確認すると、テオが話を始める。
「順調に進んできた今回の道ですが、ここに来て問題が発生しました。
すでにご存知とは思いますが、改めて説明します」
簡単な状況説明が始まる。
といっても皆、知っている内容。
行く先にバジリスクが出たため道を通れない。
そこから加えて新たな情報が得られるということもなかった。
そして本題にはいる。
「我々が取り得る方針は二つと考えています。
一つ目はこの辺りでバジリスクが討伐されるのを待つこと」
テオの一つ目の提案に、俺はなるほどと勝手に得心していたが、冒険者の面々は揃って微妙そうな顔をしていた。
それを証明するように女性ばかりの冒険者チーム華月騎士団のリーダーであるクララが苦言を呈する。
「それではいつ先に進めるかわかったものではないな」
同意するように他の面々の冒険者もうんうんと頷く。
一人首を傾げていると、隣の冒険者が小声で話しかけてくれた。
「納得いかないって顔してる?」
俺は冒険者とは反対側に座るラフィに尋ねようかとも思っていた矢先。
冒険者の少女の言葉の通りなので、俺は小さくコクコクと頷く。
何故か少女は少し嬉しそうに、理由を説明してくれた。
……若干、俺のことをすごい子供あつかいで接してくれているような気もするが、この容姿では当然の扱いなのかもしれない。
「えっとね、バジリスクってどんな魔物か知ってる?」
倒したことがあります、とは流石に言うわけにはいかない。
俺は無難な回答を口にする。
「大きな蛇みたいな魔物ですよね」
「そうそう。よく知ってるね!
私も実際のバジリスクは見たことがないけど、馬とかも一口で食べちゃうくらい大きいんだって」
少女は両手を顔のあたりまで上げ、「がおー」といった仕草をする。
怖さを表現しているのだがろうが、むしろ可愛らしく見えてしまう。
もちろん口には出さないが。
「その、バジリスクを倒すのは大変なんですか?
腕利きの冒険者ならこう、ぱぱっと倒してくれるのかな~と思っちゃったんですけど」
「バジリスクくらいの大物になると、そんな簡単にはいかないかな。
腕に自信のある冒険者が十人以上で討伐する相手だからね。
さっきの疑問の答えなんだけど、まずバジリスクを討伐するための冒険者を探すのに時間がかかるの」
「砦には沢山いたような?」
「うん。でも、砦にいる冒険者の多くは駆け出しや、命の危険を脅かすような魔物とは戦わない専門の人ばかり。
それでも少し前は、時折出現する大物狩りを目的とした冒険者もそこそこいたんだけど、腕に自信がある人は最近だと、王都迷宮に拠点を移しちゃってるからね」
「それでバジリスクを討伐する冒険者を集めるのに時間がかかるということですか」
「そういうこと」
「騎士の方はバジリスクを討伐してくれないのですか?」
俺の素朴な疑問に、少女は少し困った顔をしながらも答えれくれる。
「……こういっては何だけど、騎士でも優秀な方は王都の警備に配置されるの。
かつては重要な拠点であったこの場所は、今は辺境の地にある拠点の一つにすぎない。
腕のある騎士はあまりいないわ。
……ちょっと難しい話になっちゃったかな?」
「いえいえ、なんとなくですけどわかりました。ありがとうございます」
少女の説明で状況は理解できた。
要はバジリスクを討伐するメンバーが揃うのがいつになるのか、わかったものではないということのようだ。
今から王都の冒険者ギルドに討伐依頼が出されるのだとすると、依頼書が王都に届くまでの時間、人が集まるまでの時間、そして冒険者がバジリスク討伐地点まで赴く時間。
少し考えただけでも相当な時間がかかりそうとわかる。
(ないな)
俺もようやく、他の冒険者が出していた結論に至る。
「おっしゃる通り。
討伐を待っていては、いつになるかわかったものではないです。
商人からしても時間と金は等しい。
なので、自分で発言はしましたが一つ目の提案はない、と思っておりました」
テオは周囲の反応を満足気に眺めながら発言を続ける。
「二つ目は、一度砦あたりまで引き返し、山越えの道を行くということです。
先程の騎士に、そちらの道の情報を尋ねてみました。
ここ最近野盗が出たとの報告は受けてないとのこと。
また、冒険者への依頼も山側の方が多いため、道すがらの危険はそこまで高くはないとも。
危険はなるべく冒したくはないですが、今回集まっていただいた冒険者の面々であれば、何も問題ないと確信しております。
ここから引き返しても、最終的な到着予定は2~3日遅れる程度。
いかがでしょうか?」
テオの二つ目の方針に異を唱える者はいなかった。
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