18話目 幼なじみともうひとつのデート

「...い君、...平井くん!」


「え?...あ、ごめん...なに?」


真田の言葉にハッと我に返る。


「列、進んだよ?」


指さされた方を見ると前方にあれだけ並んでいた人の列が随分前へと進んでしまっていた。


「あ、あぁ、悪い。」


そう言いながらおもむろに足を進めるも先程から気になっていた斜め横のステージに目がいってしまう。


「.......平井くんもくーちゃん好きなの?」


突然のその問いに「え?あ...」と言葉が詰まる。

尚も俺の回答を待つようにこちらを見つめてくる真田に頭をかきながらぼそっと


「...あいつが、好きだから。あのキャラクター」


と答える。

真田はそれに一瞬驚いたような顔をするもすぐにニヤニヤとからかうような顔になり列の進行を示すテープを持ち上げる。


「じゃあ、じゃんけん。勝たないとね!あ、私たち抜けるのでどうぞ〜」


「え、は?いや別に...」


強引に列から離れようとする真田を制すると彼女はテープを持ち上げたまま


「取っていってあげれば、ぐるちゃん喜ぶよ!」


と笑顔で言った。


別に、あいつの為じゃない。


真田が言うから行くだけ。

ただそれだけ。


俺はそう誰かに言い聞かせるように持ち上げられたテープをくぐるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る