△8七馬麟《ばりん》

「モリくん? どこに……」


 コクピットの中、フッと開いたスライド式のドアから物も言わずに出ていこうとする僕の背中に、普段のテンションに戻った沖島オキシマからそう心配そうな声がかかったわけだが。振り向かずに僕は言うしかなかった。振り向けなかった。ミロカさんの姿をもう見ることが出来なかった。


「……決着をつけてくる。奴と……」


 余分な力と共に、感情までも抜け落ちたような僕の声に、それ以上は何もかける言葉が見つからなかったのか、空洞のような沈黙が狭い空間に満たされていった。沖島もそれっきり口をつぐんでしまったのを、僕は背中で感じた。


 無謀と思われているのだろう。確かに。だが。


 構わずコクピットから出た僕を待っていたのは、球体のゴンドラらしきものだったわけで。これもおそらく僕のオマジュネイションが作り出したものだ。これに乗れば、この「ロボ」の内部を自在に移動できる。そう、僕が決めた。決めたからには、その通りになるんだ。僕は無言でその「球体」に乗り込む。


「……」


 行先も、もはや分かっているんだろう、伝わっているんだろう。「球体」は左腕の先を目指し、音も無く移動し始めた。


 ロボの胸部にある操縦席から、時間にして一分もかかってはいなかっただろう。その間はわざと呼吸を止めて、その苦しさに意識を逸らしてたりしていた。何やってんだよ、と自分につっこみを入れながら。


 内部空間はそれっぽい機械で埋め尽くされていたものの、それらの隙間を縫うようにして、スムースに「球体」は推進していく。そして、


 終点は急に訪れた。


 左掌が接している「怪物」の首の部分。「球体」は静かに止まる。そこにはいつの間にか、いま通ってきた「通路」から直結するような「トンネル」然とした穴が開いていた。


 いや、僕がイメージし、僕が開けた。そこで「球体」から降り、その先を目指す。


 五角形の駒たちで形成された「怪物」のちょうど喉仏の辺りだ。そこに「本体」がめり込むようにしていたのを先ほど視認していた。今は「怪物」の中ほどにおめおめと引っ込んでいるようだが、そこまで直結する「孔」を穿つこと、それはもうこの「獅子」の力をもってすれば容易い。僕は無言でその「トンネル」を歩き続ける。そして、


 ぱっくり抉られた「怪物」の喉元の先には、少し開けた空間があって、その中央に、驚愕を無理やり抑え込もうとしている、先女郷の姿があった。その下半身を、「怪物」に埋め込ませて。

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