▲8六木将《もくしょう》
リンゴの皮むきのように、大根のかつら剥きのように、熟練のカンナ捌きのように。
<グッ……>
苛立ち混じりの声が、地の底を這うかのように聞こえてくるが、
……もういい。
自らの体自体をその「触手」につぎ込んだのか? 先女郷の五角形の「鱗」に包まれた身体はさらに縮んでいた。その薄ら長い首根っこを、「獅子の左手」で掴み上げる。
力を使い果たしたのか、観念したのか、されるがままの先女郷。あっさりと、決着はついたような感じだった。
だが、
……これで終わらせる気はさらさらない。二次元人、お前らの存在意義すらもかき消して、完全にこの地球から排除してやる。
言葉にしてみるとそんな陳腐な感情に、それでも僕は押され続けられていたかった。ふとした瞬間に、襲い掛かって来る感情があったから。
「と……金」
……ミロカさん! 僕を呼ぶ声が聞こえた。沖島の膝枕に力無く横たわったまま、そんなか細い音を何とか絞り出したかのように思える、その力を感じさせない声に、僕は言葉を失ってしまう。
「アンタの……力でねじ伏せるって……望外なパワーで圧倒していくってやり方、ほんとは私も好き……」
……いろいろ修飾的な言葉は乗っかってはいるものの、「私も好き」。その響きだけが、その響きだけで、僕は自分の闘志に発火材的なものがごんごんくべられていくことを凪いだ頭で認識している。
「でもそれじゃあアイツは倒せない。向こうのフィールドに飛び込んでの、そこからのブン殴り……絶対的で根源的な、勝利を見せつける。それを見せて。そこまでは何とか見届けて……みせるから」
ミロカさんの言葉、それはおぼろげながら僕にも掴めてはいた。でも「そこまでは」……とか、言わないでくれよっ。
「……」
しかしそれでも言葉は出なかった僕が、すがるように伸ばした右手を、ミロカさんは自分の震える左手をそこに添えて、自分の青ざめた唇まで引き寄せると、優しくそれを触れさせてきた。
「……」
こうまでされて、奮い立たなければ男じゃあ……ヒーローじゃあない。僕はそれきり気を失ってしまったミロカさんの姿を一度網膜に焼き付けてから、力を込めて立ち上がる。
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