△8三毒蛇《どくじゃ》
マットに仰臥したままの
<ああーっとぉ!! ロボ選手っ!! 自らの右脚を半魚選手のその股の間に差し入れるっ!! これは出るか? フィニッシュホールドぉぉぉぉっ!?>
実況の声ががんがん響いてくるけど、名前は見たまんまの適当さだ。いやそれはいい。とどめを刺そうとしている、そんな僕の意を汲み取ってくれてるのは流石。そうだ、このタイミングしかないっ!! とどめを! お見舞いするぞ、先女郷ッ!!
<自らの右脚に相手の両脚を絡めるように……っ!! そのまま強引に相手の身体を返すッ!! これは伝説のっ!!>
そう、伝説の、デスロック。
<……!!>
先女郷の両脚を極めたまま、その身体を裏返し、腰を降ろして固める。
<……っサソリが入ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 完璧にっ!! 決まっているぅぅぅぅぅっ!!>
この上も無いほどの巻き込み方で、がっちりと渾身のサソリ固めが炸裂した。外せないし、外さないっ!! 僕はロボの大胸筋(見えないけど)を誇示するかのように、胸を反らしていく。決まった、これで決まったと、実況の感極まったような声を浴びながら、今までの人生では味わえなかったほどの高揚感に包まれていた僕だったが、
……ふと、嫌な予感が押し寄せてきていた。僕は肝心なことを履き違えているんじゃあないか?
相手をタップさせるまで追い込んでやると息巻いていた僕だが、え? 待てよ冷静になれ。タップって、そんなルールがあるわけじゃないし。
躊躇した、その瞬間だった。
「!!」
僕の視界の中心で何か「黒いもの」が爆ぜる。そして僕の体の左側で感じる衝撃。
「ぐっ……!! あ……」
一拍遅れて、激痛がやって来る。先女郷の……これは触手。直接……僕を狙ってきやがっ……た。
先ほどのミロカさんの鋭利なピンヒールのように、その「触手」の先端は研ぎ澄まされており、それはあっさりと無遠慮に、僕の左肩の辺りを貫いていたわけで。
そうだった。これはルールに則ったスポーツじゃあないんだ……浮かれて、ひとりよがりなショーを演じて……どうする。
「と金っ!!」
右後ろからは、ミロカさんの張りつめた声。しくじった。バカだ僕は……
「!!……伏せて」
さらに右方向から、
呼吸するとそれに合わせて痛い……痛みは治まる気配は無く、温かいものが、全身スーツの左肩付近で広がっていっているのが分かる。そんな、ぼんやりとした思考しか出来ないままの僕に、浴びせられる懐かしいツン声。
「伏せろって言ってんでしょぉぉぉぉっ!!」
満足に動かせない体を、上から無理やり押し込まれていく。「スカーレット鳳凰」が、その両翼で僕をかばい守りながら、触手に当たらないように、体勢を低く低く押さえつけてくれているんだ……ありが……とう、ミロカさん。
仰向けになったまま、ミロカさんの方を向いた。その時だった。
「……!!」
その紅いフルフェイスマスクの右こめかみ辺りを、「黒触手」の一本が跳ね飛ばすかのように通過していく。激しい衝撃に亀裂を走らせながらそのマスクは主の元から弾け飛んでいくと、
「……」
その下に隠されていた、美しい少女の顔を露わにさせる。しかしその表情は抜け落ちていて、その白い頬を伝って、やけに鮮やかな赤が伝ってくるのも見えた。
力を失い、僕に被さるようにして迫ってくるミロカさんの血の気が失われた顔は、これまででいちばん現実感が無かったわけであり。
「……え?」
僕はそんな間抜けなひと声を上げることしか出来ないわけであって。
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