▲8二古鵄《こてつ》



「フハハハハッ!! みなぎるッ!! みなぎるぞぁぁぁぁああああああっ!!」


 傍から聞くと悪党サイドはどちらか判別しにくい状況に陥りかけていたが、タガの外れた、僕の躍動は止まらない。渾身の、全体重を込めた蹴りから着地すると再び両手を軽く前に突き出した構えの姿勢を保持する。


 <……>


 単純な技の方が効いたのか、コーナーポストまでろくに受け身も取れずに飛ばされた先女郷サキオナゴウは、尻餅をつくという無様を晒してから、のろのろと立ち上がっては来る。状況に、うまく対応しきれていない感じ……いいのかな、そんなことで。


 10mくらいのロボの全身に、筋繊維状の力の束みたいなものが、張り巡らされていくような感覚がしている。脳神経から、直に四肢の先まで伸びて、自在に命令が行き届くかのように……っ!!


 もはや機械の動きではない。まるでしなやかな筋肉のように、流麗にその形を変えながら、収縮をするかのように僕のロボは縦横に躍動するのだ……っ!!


「と金っ!! イニシアチブをやる代わりだ、即詰みで追い込めっ!!」


 エヒィッ!! ……いい感じの陶酔に引き込まれていた僕は、斜め背後から捻じり込まれてくる、延髄へのピンポイントピンヒールの痛撃に、はっと現世に戻って来るのを知覚する。


 しかし、自在感は全く収まる気配を見せない。コーナーからよろぼい出て来た半魚人様の先女郷の、力無く下がった肩に自分(ロボのだけど)の肩を合わせると、


「うおおおおおおおっ!!」


 そのまま頭を相手の下に潜り込ませると共に、その体を真っすぐ天地逆転させて天高く抱え上げ、それから後ろに向けて倒れ込みつつ、相手の頭をめり込ませていく。


 垂直落下式に、僕なりのアレンジを加えた高角度の技が見事に決まった。マットにうずくまり、頭を押さえる先女郷。と、


 <ああーっとぉっ!! 戦隊ロボ然とした方の、オリジンに近いブレンバスターがッ!! 黒い怪物の巨体を捉え、完! 全! にっ!! 頭頂部をマットに突き刺すが如くっ!! パーフェクトに決まったぞぉぉぉぉぉぉっ!!>


 そこに大音声で響き渡ったのは、いやに滑舌の良い、男の実況の声だった。中空に浮いた「リング」の周りを見やると、何台かのヘリコプターが、こちらにかなり肉薄して旋回しているのが音でも分かる。


 危険を物ともせず、いや逆に危険だからこそなのか、開け放たれたヘリのドアから身を乗り出して、前歯がやけに突き出している実況の男が、興奮した様子でヘッドセットに向けてしゃべりまくっている。


 あぶねーなーと思いつつも、やはりレスラーを盛り上げるのは実況なのかもしれない……と、立ち上がり構えてからも、しばしの余韻を持ってみせたりする僕。ふっ……決まっ……


「はやく決めろ」


 アヒィィっ!! ……いま頸動脈を貫きそうなほどに、長く鋭利なヒールが僕のうなじから差し込まれそうになったよ。伸びた!? そして極限までの鋭利化をした!? これも……「オマジュネイション」の……力……なのか……ッ!?


 詮無い自問をしている場合じゃない。ミロカさんは先ほどからこの展開をこころよく思ってはいないから。


 迅速なとどめ、それを的確に遂行しないと、逆に僕にとどめが刺されてしまう……っ!!

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