▲7五近王《きんのう》

 新宿駅のすぐ真上だった先ほどから、さらに上空へ。雨はとうとう本降りになってきた。


 僕らの乗りし「棋聖獣キセイジュウ」たち(ただいま命名)は、その巨大化したメタリックな質感のボディに水滴を弾けさせながら、その形状をさらに変容させていく。


 空中合体。それこそがっ……男の、いや、少年の浪漫だ。


 前肢後肢は折りたたまれ、大胆に首根っこがぐるりと回転したりして、6つの「パーツ」と化した各々のマシンは、派手な色とりどりのカクテル光線を放ちながら、何かに導かれるようにして、ただひとつの到達点向けて、一斉に集まってくる……っ!!


「……浪漫やねえ。やっぱ」


「応ッ!! 変わらぬ爆足を、見せてやるぅぅぅぁぁぁぁっ!!」


 緑の「鯨」、黄色の「豹」はそれぞれ両脚部へ。


「我こそが中心、中心たる黄金ゴールド……っ!!」


 よく分からぬ事をのたまうセンパイの「金飛車」は腰部、胸部へと。


「……一緒だね、モリくんっ」


「えっ、あ、ああ……うん……ん? ええと、あれ?」


 右肩および右腕に、桃色の「虎」。左肩および左腕に、赤き「獅子」。うんまあ、バランスが取れていなくも……ない……ない、けど。


「『六棋合体』っ!! 『ダイ×ショウギ×オー』っ!! 見……参っ!!」


 頭部に舞い降りた「鳳凰」が、がぱりと張り付くように真っ二つに割れると、そこから往年の「ロボ」然とした、ごつごつしくも凛々しい顔が現れる。


 戦闘時のミロカさんが達する、MAXボルテージの気合い声と共に、そのロボはどういう関節をしているのだろうと思わせるほどに柔軟な動きで、空中で見栄を切る。その背後から爆散する六色の光の放射。


 これまた想像から一ミリもずれていなかった堂々たる佇まいに感激すら覚えつつも、あっるぇ~? 僕が頭部じゃないの? みたいな、咀嚼しきれない硬い玉のようなしこりも胸に居座ってはいるのだ・が。


 ここは一発、やるしかない。


 <フフ、実に面白イね、キミたちは。だガ、蚊トンボがせいゼい子ネズミになったとこロで、大勢は変わらンよ>


 先女郷サキオナゴウ、いや、もうその姿は「怪物」の黒い「鱗」のようなものに覆われて見えなくなっていた。しかしその巨大な体の奥底から発せられてくるような、腹にどしんと響くような声は健在で、さらに傲岸不遜さもにじませながら僕らを嘲笑ってくる。


 確かに彼我の体格差はまだまだ途方もないくらいで、奴が形容していたように、ネズミとゾウくらいはありそうだ。空を埋め尽くさんばかりに横方向にも広がっていく黒い雲のような「怪物」。もはや何の形も成しておらず、ただのどろどろした塊のようにしか見えない。


 ガタイの大きさが勝敗を決するわけではない。そいつは確かにそうだ。だが、でかいに越したことはない。バルクアップするのは何のためだ? 筋肉こそが力の源、筋肉があれば、何でも出来るッ、そう、そのはずだからだ……ッ!!


 普段は99.99%がとこ眠りについている僕の大脳の中で、閃光のようなイメージが拡散していく。筋肉……筋肉。理想の筋肉、理想の身体。


 そう、それこそが「力」の、正義の力の体現と、僕は定義するッ!!


 いい感じにキマってきた全中枢器官をフル稼働させ、僕はより雄々しく、より猛々しい「姿」をイマジネイトしていく。

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