△7四鉤行《こうぎょう》

 僕の体に、得も言われぬ力が漲ってきていた。プラス、頭に浮かんだことが見事に現実としてトレースされて実現していく感覚……ヒーローは、こうじゃなきゃあならないっ!!


 初めて見せ場らしい見せ場を与えられた僕は、ゴーグル越しに、羽織姿の「目標」をしっかりとロックオンする。


 先女郷の「本体」まで、残り20mほど。しかしその顔には余裕が笑みの形をもって貼り付いたまま。舐めるなあぁぁぁっ!!


 <落ちるがいい、蚊トンボ……>


 先女郷の最早出どころもよく分からなくなった低音が響くより先に、その「化物」の右腕が水平に差し上げられると、その車両ほどある大きさ長さの黒い金属の塊のようなものが、弾けて何本もの「触手」へと変容してくる。こいつの攻撃もありがちになってきたぞ。かといってそれをいなす有効な手段もないわけだが。


「……!!」


 急上昇して何とか黒い触手束をかわす。こいつらをいちいち相手にしてる暇も無い。どうする?


 その時だった。響く間の抜けた声。


「……ふふふ、鵜飼ウガイくん!! こんな時こそオマジュネイションじゃあないか。さあいくぞみんな、……『六棋合体』だぁぁぁぁぁっ!!」


 そこに掛けられたのは、何とも緊張感の抜けた波浪田ハロダ先輩の声であった。それに対し、周りの面々もそれぞれ薄いリアクションで流し気味に収めようという空気が流れ始めていたが、ちょっと待てよ。それいけるんじゃね? 僕はそれに乗っかることを即座に決める。そして、


「みんなぁぁぁぁぁぁぁっ!! 僕と!! 合体してくれぇぇぇぇぇぇっ!!」


 魂の叫びは、「ええ……キモ」というような女性陣の汚物に投げかけられる呟きをも凌駕して、何とか本能レベルで「共有」されたようだ。鮮やかなそれぞれのイメージカラー(?)の光線を周りにぶちまけながら、「メカ」たちは、謎の力により膨張し、その体躯をぐんぐん巨大化させていく。


「!!」


 そして次の瞬間、がぱりと開いたそれぞれの乗機の背中部分に吸い込まれるようにして、その内部へと誘われた僕ら。ハッチ状の天板が音も無く閉まると、中はやっぱり、メカメカしい「操縦席」だったわけで。


 用途や意図は全く分からないものの、様々な数値や記号が躍るディスプレイが光を放っている。いいね、テンションやっぱ上がるわ。そして両手の辺りには二本の操縦桿。それを握ればオールOKなのは、脊髄レベルでもう、把握している。


 搭乗完了。やはり巨大化した敵に対しての戦隊ヒーローの手段と言えば、決まっている。


「がっ……たいっ!!」


 あえてのフレーズを力強く叫ぶ僕。合体は男の浪漫。変な意味じゃなくて。

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