▲6八方行《ほうぎょう》

「おおおおおっ!!」


 この面子揃っての「対局」では初とも言える先陣を切って、僕と、跨った機械仕掛けの「獅子」は、敵の総大将……先女郷サキオナゴウ九冠との間合いを一気に詰めていく。


 しかし、それを見越していたのか、それを阻むかのように、向こうの敵駒たち……「金」やら「銀」やらが次々と飛び出してきた。砕け散った仲間の破片を吸収した結果、それらの大きさは今やちょっとしたビルくらいはある。まさに迫りくる壁。


 だが、そんな鈍重な動きでは、僕らを捉えることなど出来ない。


「……」


 五角形の巨大ボディから突き出た「脚部」は、鉄骨をより合わせたような無骨な作りをしているわけだけど、おやおや? その太さは体自体の大きさには比例出来ていないようだぞ? 見るからに細い。ということは。


 僕の狙っていることを先回りして、「イエロー猛豹」ことナヤさんが、背中に掴まった「豹」と共に、歪む盤面を、地を這うがごとき低い姿勢で疾駆していく。さすがの加速。僕と「獅子」を追い越し、敵陣へ突っ込んでいく。嗚呼、またもや一番槍の殊勲が……


「遅えええええんんんんだよぁぁぁぁぁぁっ、このデカブツがぁぁぁぁぁっぁっ!!」


 相手駒に言ったのか、それとも僕に言ったのか、もしくは双方か、それは分からなかったが、その素っ頓狂なテンションも、いつも通りに戻っている。いける。黄色い影が、残像を残すほどのスピードで、敵駒の足元へ……っ!!


「!!」


 猛豹の渾身の体当たりにより、バランスの悪い脚を払われ、先頭の「金」が無様にも間抜けにも見える仕草で、後方に向けて盛大にすっ転ぶ。お見事。


「ふっふ……正に、『将棋倒し』、だね?」


 波浪田センパイも何とか立ち直ったようだ。自らは何もせずに、後方で余裕げに顎に手を当てると、そんないらんことをのたまっている。けど貴方だけは先ほどまでのシリアスの方が良かったような……


「……!! ……!!」


 しかしその形容通りに、巨大な駒たちは、先頭の奴の「後頭部」がその背後のにぶち当たったのを皮切りに、連鎖状に次々とドタンバタンとなぎ倒されていく。


 ……道は開けた。


 再び現れた先女郷の羽織袴姿にロックオンしたまま、僕は再び「獅子」を走らせる。目標は目前。射程距離に……入った!!


「ふ」


 しかし、だった。目指すその優男は全くの余裕の笑みを見せながら、芝居がかった仕草で両手を広げて見せると、次の瞬間、何の力か分からないものの、上空へと静かに上昇していく。


「……本気を出すと言った……それには、こんな狭い空間ではとても足りない。君らの『世界』で……存分にやらせてもらう」


 沈着な感じだが、何故かこちらを圧倒、戦慄させてくる声で、先女郷の上昇疾駆は止まらない。その頭上の宇宙のように遥か広がって見える空間に、ぴしりと、僕らがここに入ってきたもののような「亀裂」が走る。と同時に、開く傷口のように、それはぱっくりと広がった。その向こうには、「ここ」の宇宙空間然とした暗黒と対照的な、抜ける青い空が見て取れる。


「……また、『私たちの世界』の方に出るみたいだよっ!!」


 ショッキング=ピンク盲虎:沖島オキシマは、余裕からなのか揺るぎない信条からなのか例のキンキン声で注意喚起してくるが、やはりこいつらは「こっち」の世界への干渉を、露骨に始めて来ようとしているようだ。


 どうする?


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