▲5九四天王《してんのう》
「『何なんかわからんけど
意気込んで飛び出していった僕だが、やはり、フウカさん(グリーン反車)の突進力には敵わない。「枡目」は混沌としているのでその座標は正確には判別できてないようだが、そんな事は物ともせずに、力強い踏み込みで、敵の最前線へと一気に距離を詰めていく。
「と金ッ!! いま一度左から回り込む一手だろうがッ!!」
光弾の連射を続けているミロカさん(スカーレット鳳凰)も、興が乗ってこられたようで。腹から出されたその命令なんだか叱責なんだかに背を押され、僕(レッド獅子)も敵陣へと飛び込んでいく。
「だろうがァァァァァッ!!」
おっと、被せるようにして、既に戦闘モード(と言うか罵倒モード)のナヤさん(イエロー猛豹)の素っ頓狂怒声も背後から聞こえてくる。一瞬、バランスを崩しかけた僕だったが、それをもフェイントとしてかまして、一拍の時間差を置いて、敵集団の斜め左から飛び掛かっていった。
「『
我がネーミングセンスは今日も冴え渡っている。大きく後ろに振りかぶった左肘を、前方へ投げつけるように、右側に払い抜けるように薙ぎ払う。未知なる大将棋パワーにより強化された上腕筋が唸りを上げ、上腕骨を獲物を喰らい屠る「獅子の牙」へと変貌させる。薙ぎ払った反動でそのまま自分の身体も半回転するままに流しつつ、左肘は背後へ引き絞って「当て」の時間および距離を稼いで、敵陣の前面を払い抜けた。
すなわち横一閃。
回避不能の一撃に、敵の陣営は大きく揺らぐ。最前にいた「歩」だか「銀」だか「桂」だかのこめかみ辺り(推測)を、まとめて「牙」が粉砕していった。黒いボディの全面にも亀裂が走り、次の瞬間、横並びの7~8体がとこが一斉に爆散する。
いや、一匹、仕留めそこなった。ひときわ大きい「角」。5m弱はありそうな図体の「小駒」より、さらにひとふた回りの威容を誇るそいつに対しては、弱点である「こめかみ」に、僕の一閃がほんの少し到達しなかったようだ。ブルブルと気持ちの悪い震えをその五角の馬鹿でかい体に伝導させながらも、こちらに向かって、伸縮する鉄骨を束ねたような腕を繰り出してくる。
この詰めの甘さ……後でミロカさんからはねちねちと、ナヤさんからは直情的に、そして
「詰めがぁぁぁぁぁッ、甘いぞァァ
素っ頓狂な胴間声が、その目に追えない動きの後から追いかけてきた。「イエロー猛豹」ナヤ氏は、歪な盤面を物ともせず、一呼吸の間に三マスくらいを体重を感じさせないほどのしなやかな体さばきで抜けると、小さめのジャンプを繰り返す壁蹴りで、「角」の二階建てくらいの高さのボディの壁を瞬時に駆け登っている。
「角」は、伸ばしきってしまっていた自らの両腕を再び縮ませつつ、自分の身体に張り付くナヤさんを捕らえようとしてくるが。
「こっちはよォォォッ、取った駒を再利用するとかいう、画期的な要素はねえんだ。とっとと盤上からぁぁぁ、消え失せなァァァァッ!!」
「角頭」。ディスイズ、フェイマスウィークポイント。「イエロー猛豹」のマスクの「顎」の部分と、胸の上部―鎖骨と鎖骨の間辺りには、黒い金属質のギザギザの突起が並ぶパーツが付随しており、それはどう見ても猛獣の牙であるわけで、比喩的に表現した僕のエルボー技とは、大分趣きや即物感が段違いに恐ろしく異なるのであった。
「ウガアアアアアァァァッ!!」
もうメンタルも猛豹なんじゃね? と、その「黒い牙」を剥いて「角頭」に喰らい付いて貪り食っていっている、その覚醒したのか退行したのか、判別できない野獣感が増した黄色い後ろ姿に、僕は動物的な本能を揺さぶられ、恐怖で少し立ちすくんでしまう。
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