△4九車兵《しゃへい》
意気込んで対局に臨もうとした僕だったが、やっぱりミロカさんの方が場慣れしているのもあって行動は圧倒的に素早いわけで。
「『2七鳳凰』、『同じく4四鳳凰』、『同じく2三鳳凰成』っ!!」
毎度「同じく」の使い方を誤っているような物言いだけど、その動きは正に疾風怒濤。低空を滑るように疾駆するその細身の体は、ゆらり舞い踊るかのように、しかし鋭く盤上を駆けると、あっという間に角頭の歩を殺して、おまけに成りまで入れてしまった。
「……『スカーレット
そしてまたしても黒一色の「パワーアップパーツ」とでも言うべき、金属質の物体が周囲の虚空から現れ、その体を包むように覆う。とめどないオーラのような力が、四枚に増えて展開する大きな黒い翼と共にそこから湧き出る様を、遠目からただ見やることしか出来ていない僕。いや、ただ見てるだけじゃあかん。
「奔王」とは、「鳳凰」の成駒であり、縦横斜め、どこまでも行ける、要はチェスの「
しかし、今回の相手は何と(と言うほどではないが)、今までに見慣れた(と言うほどでもないか)「黒い」駒では無かった。暗闇空間だったからよく分からなかったものの、その鈍く光る五角形のボディは、たまに宙を駆ける流星のようなものの光に晒されると、白銀の輝きを返している。
「ホリウメンター」と、先ほど
と、そんな詮無いことを思い浮かべていたら、流石の「彫埋」、指し手も十倍くらい早い! 「3四歩」と、角道を開ける自然な初手ではあったが、前局でも言ったけど、歩が無い我らにはその角の利きが直射するわけで。そして「8八」が初期位置の僕が当然の如くロックオンされているわけで。
「は、『8九』……」
僕が一歩引いて、相手角の成り込みを防ごうと着手を発声しようとした、その時だった。
「待ってモリくん!! 成らしちゃっていいから、『7六』『6五』『5三』と駆けてっ!!」
僕の二マス右隣にいた沖島……こと「ショッキングピンク
それより何より、盤上でこいつが言う事だったら、聞くしかないっ!!
「おおおおおっ、『7六獅子』『6五獅子』『5三獅子』だぁっ!!」
言われるがままの指し手を唱和するだけで、僕の体は何かに操られるかのように盤上を力強く躍動していくのであった。「5三」にいた歩を苦も無く跳ね飛ばすと、相手玉とひとマス挟んで向かい合う形となる。なるほどなるほど、チェックメイト……いやもう「詰み」じゃないか。流石なり、沖島。
<『5二金左』『4二金直』『6二銀』>
慌てたかのような動きで玉の前に双金と右銀までが飛び出し、ボディガードのように体を張って遮ろうとしてくる。「彫埋」……指し手だけは早いな。だが、そういった常識とか定跡は通用しねえんだ。すなわち!
「
「……既に玉を召し取っているんだよ」
キメの台詞を放った僕の体は、二マス先の相手玉の居た「5一」の所まで瞬時に突進移動している。振り抜いた腕に、間に入った左金と、そして総大将、玉を串刺しに貫いたまま。
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