助けてください!男子トイレからとりあえずゾンビが!!
ちびまるフォイ
ただちに訓練の成果を出して逃げてください!
『男子トイレから火災が発生しました。
生徒の皆さんは落ち着いて避難してください』
「火事?」
「おいウソだろ!?」
VR授業中だった教室は一転してざわつき始める。
この学校には教師は不在で生徒のみで授業が行われている。
「とにかく、校庭へ出よう!」
誰が言い出したのか、その声に従って生徒は避難を始めた。
校庭に出てみると学校には火どころかボヤも出ていなかった。
校庭の中央にはお立ち台に立つ校長先生が待ち受けていた。
「はい、みなさんが避難してくるまで30分かかりました。
おかげで授業を再開するのに30分損しました」
「校長先生、あのこれって……」
「ゲリラ避難訓練、略してゲリです。
災害は事前に連絡なんてしてくれませんから、
こうしてみなさんに避難訓練の機会を与えていたのです」
「なぁんだ、そうだったのか」
「でも、今回はみなさんの集まりがあまりに遅かったので
明日も避難訓練は行います。
目標タイムに届かなければ、何度も繰り返しますからね」
「ええーー……」
もはやゲリラとは何なのかと言いたくなる説教だったが、
これ以上校長先生の話を長引かせて給食の時間に食い込むのは避けたかった。
翌日、生徒たちは昨日の失敗から学び、避難ルートを綿密に確認した。
「この階段は混むから、こことここの通路を使おう」
「スムーズに避難できるよう、私が避難誘導するね」
「どこが火災現場に指定されても大丈夫なように練習しよう」
満を持して避難訓練に自主的に備え終わったころ、
ジリリリリと非常ベルが鳴った。
『男子トイレからゾンビが大量発生しました。
生徒の皆さんは落ち着いて避難してください』
「ゾンビ!?」
生徒は一心不乱に校庭を目指して避難した。
校庭にたどり着くと、校長先生がまた待っていた。
「はい、みなさんが集まるまでに、先生ちょっと寝ちゃいました。
遅すぎます。これでは目標タイムに届かないです」
「いや、ゾンビが大量発生って……聞いてないですよ」
「言ったはずですよ。災害は何の前触れもなく起こると。
ゾンビが"それじゃ噛みつきま~す"と言ってから襲ってくるんですか?」
「そもそもゾンビが出てこないですよ!!」
「それは言い切れないでしょう。
今回はVRゾンビだったから良かったものの、
もし本当のゾンビパンデミックが起きていたら、みなさん肉塊待ったなしですよ」
「校庭で突っ立っていた先生がまっさきに襲われるような……」
「校長ビーム!!!」
私語をしていた生徒に校長ビームが突き刺さった。怖い。
「みなさんが目標タイムで避難できるまで何度も避難させますからね」
「シチュエーションが特殊すぎるんだよ……」
翌日、ゾンビと火災に備えた生徒たちに向け、再び非常ベルが鳴った。
『男子トイレから巨大ドラゴンが出現しました。
生徒の皆さんは落ち着いて避難してください』
「はい、今回もダメ。遅すぎます。
窓から逃げるなんてドラゴン相手に自殺行為ですよ」
『男子トイレから連続殺人犯が多数脱走しました。
生徒の皆さんは落ち着いて避難してください』
「ダメダメです。今回も遅すぎます。
みなさん、連続殺人犯の心理をもっと勉強してください」
『男子トイレからエイリアンの卵が孵化しました。
船員の皆さんは落ち着いて避難してください』
「ダメですねぇ。もしここが宇宙船だったら、
みなさんはすでにエイリアンに寄生されていますよ」
『男子トイレから――』
「男子トイレ多すぎだろ! どんな異空間なんだよ!!!!」
そんな避難訓練の訓練をしまくる日々が続くと、
すでに生徒たちも経験値がたまり顔つきは特殊部隊のそれになっていた。
「こちらアルファ、避難経路クリア。オーバー」
「こちらチャーリー。チョコレート工場の封鎖に成功。オーバー」
「こちらブラヴォー。1024通りの避難パターン構築完了。いつでもOK」
非常ベルが時報のように鳴った。
『用務員室より火災が発生しました。
生徒の皆さんは落ち着いて避難してください』
「全員任務開始」
「「「 ラジャー 」」」
生徒たちは一糸乱れぬチームワークで高速で避難を開始する。
あっという間に校庭への集合と整列を終えてしまった。
そして、校庭に出てから気づいた。
「おい、あれ! 本当の火じゃないか!?」
「本当だ! VRじゃないぞ!」
「今回のは避難訓練じゃなかったのか」
生徒たちは燃える校舎を眺めていた。
こうして避難できたのもこれまでの訓練のおかげだ。
その後、今回、唯一の火災犠牲者の葬儀が行われた。
「避難訓練してなかった校長先生の葬儀のおかげで、
授業再開するのが1日遅れました」
助けてください!男子トイレからとりあえずゾンビが!! ちびまるフォイ @firestorage
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