とある冬の日
遠山李衣
第1話
「雪合戦しようよ」
師走も終わりに近づいたある日のこと。君は、僕を優しく包む毛布を勢いよく引っ剥がした。寝惚け眼をこすってひんやりした床に降り立ち、カーテンを開ければ、真白い絨毯に反射した光が目を灼きつけ…。
「雪、降ってないじゃん」
僕は、シャッとカーテンを引きなおすと、回れ右して布団に潜り込む。体温が残るそれは、すぐに僕を夢の中へと引き込んでいく。
「おやすみ」
「あ、寝ないでよ!」
「うっ…重い」
微睡む僕に、突然何かがのしかかる。見ると、ほっぺを膨らませた君が馬乗りになって、僕の肩を揺さぶっていた。
「起きてよう! 雪合戦しようよう!」
「ちょっと黙って」
しばらくはされるがままにしていた僕だったけれど、君の形のいい頭を捕らえて引き寄せると、紅い花弁に口づけた。そのかんばせはみるみるうちに同じ色に染まっていく。肩を掴む手が緩むのを見て、くるっと体勢を入れ替えた。
「顔、りんごみたいに真っ赤」
からかいつつ、君の左頬を中指の背でなぞる。最初の勢いは失われ、可愛い恋人の眸はとろんと溶けていった。
「今日は一日中ベッドで過ごそうね」
右手で器用に胸元のボタンを外していく。現れた柔らかな膨らみに触れた瞬間、君の眸がハッと見開かれた。
「雪合戦するのっ!」
そして、勢いよく両手で突かれる。
油断していた僕は、簡単にベッドから吹っ飛んだ。
「ダメだったか…」
どうやら恋人との甘い時間は諦めるしかないようだ。
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