死後も現世でゾンビやってます  ~三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺~

七詩のなめ

極東の荒神

第1話 裸イベントが発生しました

 世界とは何か――――


 それは歯車だ。

 それは未完成なものだ。

 それは見えないものだ。

 それは未来があるものだ。


 どれもこれもくだらない言葉だ。

 俺、御門おかど恭介きょうすけが考えるに、世界とは『ない存在』だ。

 こんなことを言えば、他の人達は皆、笑いながら口を揃えてこう言うだろう。


「お前は、中二病か」


 ってな。


 まあ、普通に考えてそうなるのだろう。

 しかし、ここで注意してもらいたい。俺は、中二病ではない。

 そもそも、俺がこう考えるに至ったのは、あの馬鹿な神のせいなんだからな。







 朝なんて嫌気だけが生きる時間だ。特に、日差しが眠い目を照らすのはタチが悪い。最も、タチが悪いことで群を抜くのは、俺の場合に限って違うものになってしまうのだが。

 時間にして六時半というところだろうか。深夜一時を回ったところまでは記憶にあるが、それ以降、いつ床に着いたのかさえも曖昧な俺は、絶賛眠気マックスだ。だと言うのに、目が冴えてしまうのはきっと、目をつむったのに感じる、前方の人の気配のせいだろう。


 現在、俺の家には両親がいない。死別したわけではなく、単に昨日から海外出張中なのだ。よって、俺の目の前に人の気配がするのはおかしいことになる。

 もう一つおかしいと言えば、目の前のから吐息と、女の子の匂いが微かにすることだろうか。

 何がおかしいのかって? もちろん、彼女なし歴=年齢の俺の家に、しかもベッドの中に、女の子の匂いがすること自体がおかしいっていうのさ。

 よくわからない? つまりだな。童貞のベッドに女の気配がすることがおかしいっていうのさ!!


 流石に、不審者だったら怖いので、薄めを開けて目の前を見てみた。すると、そこにはワイシャツ姿の見知った女の子が眠っていて……っ。


「って、麻里奈まりな!? お前、どうして……なんでワイシャツしか着てないの!?」


 俺の目の前に眠っていたのは、神埼かんざき麻里奈まりな

 俺の一歳年上だが、小さいころから一緒に遊ぶことが多かったため、幼馴染のような関係になってしまった。今では、同じ高校に通う仲である。彼女は生徒会長という名誉ある職に着いているが、その逆に俺はと言うと、部活動すらしていない帰宅部である。


 仲の良い知り合いであるが、布団の中まで一緒なんていうのは聞いてない。いや、びっくりしすぎて正座しちゃうレベル。ほんとどうなってるわけ。


 眠気が支配する脳が、一気にギアを上げたようにフルアクセルになる。そして、温まってきた脳が叩き出した結論は、麻里奈の寝顔が可愛い――なんていう結論は置いておいて、とにかく! 麻里奈が俺のベッドで何故か眠っているという根本的疑問の解決だ。


「……ん~」


 俺の叫びにうるさいというように眉をひそめる麻里奈を見ながら、起きてくれないと困るのでホント起きてくださいという気持ちを込めて麻里奈の肩を揺らす。そうして、数十秒揺らしていると、麻里奈の目が開かれていき、意識が戻ってきたようだ。


 良かった。これでなんとか俺のベッドで寝てた理由を聞ける――。


「おはよ……いい朝だね」


 クテッと俺の枕に頬を付けて起き上がろうとしない。眠っていたせいでキレイな黒髪が無造作になっているのがまたエロい。まだ頭が働いていないのか眠そうな声色も、有無を言わさぬ色っぽさを帯びている。


 やばい。俺の幼馴染がマジでやばい。


 うっかり語彙力がさようならをしてしまいそうになるが、今はそれどころではない。

 麻里奈が俺の家にいるのはいい。まだ許せる。というか日常に近い。でも、麻里奈が俺のベッドで寝ているのは許せない。なんというか、一緒に寝たのなら、ぜひともその時の記憶を俺にください。というか、寝てただけですよね? それ以上でも以下でもないですよね?


 高校生という立場で、夜の営みを犯し、あまつさえその時の記憶が無いなど、言語道断である。いやまじで。パリピとかは良いかもしれないけどさ。俺みたいな一般ピーポーだと駄目だから。主に心臓に悪いから。

 意を決して、俺は眠そうな麻里奈に問を投げる。


「えっと……なんで麻里奈が俺のベッドに?」

「え……? あー。お婆ちゃんの修行が大変で、逃げたら眠くなったから、きょーちゃんのお家で寝たの。ほら、きょーちゃんの両親いないの聞いてたから」

「あ、あーね。なるほど……どこで俺の両親が出張だって知ったわけ? 確か、まだ誰にも言ってないんだけど」

「あー……っと。そう言えば、お腹空かない? 朝ごはん食べよっか」

「おいぃ!? ほんと、その情報どこから仕入れた? ねえ、俺の情報どこから漏れてるわけ!?」


 バツが悪くなった麻里奈は、すんなり起き上がると早足で俺の部屋から出ていこうとする。だが、忘れてはいけないのが、今の麻里奈の姿である。現在、麻里奈は睡眠を取るために来てきたであろう服をほとんど脱いでいる状態だ。つまり何が言いたいのかと言うと。


――彼女は今、ワイシャツしか身に着けてはいない。


 所謂、裸ワイシャツというやつだ。いやまあ、パンツを履いているのかは調べようがなかったが、ブラジャーは背後から見ても身に着けていないのがわかる。非常に目のやり場に困るラッキースケベな状況に、困惑を覚えるが、とりあえず手早い動きでスウェットを取り出し、麻里奈の方へ投げる。

 見事、麻里奈の背中に命中したスウェットが、力なく床に落ちる。それを拾い上げた麻里奈がこちらを向いて、首を傾げた。


「と、とりあえずそれを履け! お、おま、ワイシャツだけしか身に着けてないの忘れてないか!?」

「え? あー。でも私、きょーちゃんになら見られてもいいかな。ほら、私たち姉弟みたいなもんだし?」

「姉弟でも、ほとんど裸を見せ合うような噂は聞かねぇよ!?」

「そーかな? まあ、きょーちゃんがどうしてもって言うなら履くけど」


 言うなり、麻里奈は仕方なさそうなため息を吐きながらスウェットを履いていく。

 とりあえず、目のやり場ができた俺は、ベッドから足をおろし、麻里奈についていく形でリビングへとやってきた。そこで麻里奈は、思い出したように口を開く。


「そう言えば、私シャワー浴びてないや」

「麻里奈が朝シャンなんて珍しいな。よっぽど、その修業? とやらが忙しいのか?」

「まーねー。逃げるので精一杯」

「いや、逃げなければ良いんじゃないのか……? お前のことだし、本気でやればすぐにできるんだろ?」

「それがそうもいかないんだよねー。あっ。朝ごはんシャワー浴びてから作るけど大丈夫?」

「え? ああうん。時間は大丈夫だけど……」


 いや、まるで自分の家のような口ぶりですが、冷蔵庫の中身をご存知なのですか? ちなみに俺は全く知りません。


 とにもかくにも、麻里奈のシャワーが終わるまで俺は待機だ。テレビでも見ながら時間を潰すしかあるまい。なにせ、麻里奈の作る料理は、母親が作る料理よりも美味しいと来た。あまり料理をしない俺が作るより、圧倒的に美味しい朝ごはんが望めるだろう。

 席につくなり、俺はテレビのリモコンを使って、テレビの電源をつける。そして、映し出された朝の退屈なニュースを呆然と見ながら、軽く内容を把握していく。


『速報です。新たに変死体が発見されました。被害者は三十代の男性で、身元を確認できるものは所持しておらず、検死の結果、雷の数千倍の電撃に当てられたのではないかと言われており――』


 最近、この手のニュースが多くなった。最初に報道されたのは三ヶ月前。確か、死亡したのは中学生か、高校生だったような気がする。そこから、何人か学生が死亡しており、夜遊びをする学生を殺害しているのではないかという噂がたち、学校でも教師が注意したのをよく覚えている。


 しかしながら、町中でどうやって雷の数千倍の電撃を食らわせるというのだろうか。警察も、その謎が解けないらしく、捜査は難航しているらしい。

正直な話、夜遊びをするほど金も勇気もない俺からすれば、どうでもいい話だが、心配なのは麻里奈のほうだ。一体どんな修行をしているのかは不明だが、夜な夜な俺の家に忍び込んでくるあたり頭が痛い。


 などと考えていると、背後からガバッと抱きしめられ、俺の上半身が前へ傾く。咄嗟に体に力を入れて勢いを殺すと、背後から声が聞こえた。


「あ、振り向かないでね。今裸だから」

「……いや、だから服を着てくださいよ、麻里奈さん」

「いやー。シャワーを浴びるのは良いけど、バスタオルを忘れちゃって。きょーちゃんを呼んでも来てくれないから、来ちゃった♪」

「わー、このおちゃめさん♪ 早く体を拭いて服を着てください。いやホント、まじで」


 主に、背中に当たる弾力がプレイヤーにダイレクトアタックしてるから! もう俺のライフポイントゼロだから!!


 泣きそうになるのを我慢して、早く麻里奈が見られる状態に戻るのを祈っていると、一向に手を離そうとしない麻里奈の口から、ぽろりと言葉が落ちた。


「……ホント、逃さなきゃよかった」

「は?」


 逃さなきゃよかったって、一体何を。

 気になった俺は、間違って振り返ってしまう。そして、振り返った先で高弾力のものが、俺の頬をビンタし、同時に艶っぽい声が響く。

 瞬間、俺は天国を見た。そこにいるという麗しき天使の御姿を目に焼き付けた。それはたおやかで、豊満で、暴力的で、魅力的で、他を圧倒せんとするおっぱいは、やっぱりおっぱいで。俺はその時、ああ、麻里奈の裸はきっと、美の女神よりもなおも美しいに違いないと思った。

 そうして、同時に俺は放心状態になり、微笑んだまま青い顔になる。


「もー、だから振り向かないでって言ったのに……って、きょーちゃん!? わーどうしよう! きょーちゃんが気絶した!」


 海外出張中の両親へ。

 俺は今日も元気です。朝からちょっと、おっぱいがいっぱいな気がするけど。なんとかやっています。


 悟りを開くように心でそうつぶやきながら、俺は全裸の美少女に肩を揺らされる朝をお迎えしている。これと言って日常的なものより、ラッキースケベが多い気がするのは多分、俺が特別な存在になるからだろう。

 しかし、このときの俺は、そんなことを露程も知らない。このあと、とんでもない事件に巻き込まれて、それが物語の始まりになるなんて、本当に微塵も考えていなかったんだ。

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