妹がいればいいんで、青春ラブコメなんか必要ない
吉乃直
プロローグ
「ラブコメに必要な要素?」
「然り。
とある平日の早朝。朝礼前の一時に俺は友人からそんな質問を受けた。
ふざけた口調の友人は、今か今かと期待に眼鏡を輝かせている。
ラブコメに必要な要素、か。
「逆にお前はどんな要素が必要だと思うんだよ」
「
嬉々として饒舌に語る友人に、同じオタクであっても少し引いてしまった。
というか、普段は一人称すら定まらないのにこういうときは流暢になるんだよなぁ。
「それで、某の意見を聞いたのですから、慧殿も答えていただきたい」
「んー、そうだなー」
期待の眼差しを向けてくる友人に、俺は気だるげに、
「妹かな」
と答える。
「ふむ、まぁラノベでは定番中の定番ですの。それ以外ではないのですか?」
「ない」
俺が二つ目の問いに即答で答えると、友人は目を見開き「ほぅ」と息を吐いた。
「それはなにゆえ?」
「そうだなぁ……」
こう理由を問われても、結局純粋に『興味がない』と言う以外答えようがない。
そのことを伝えると、友人は明らかな動揺を見せた。
「つ、つまり今まで拙者が勧めてきたラブコメは、全部嫌いだということですかの?」
「いや、そうじゃないさ。別にラノベやアニメなら楽しめる。ただ、現実でそんな幼馴染みや先輩や後輩はいらないってだけだ」
「まぁ実際にいたら面倒なだけだけどな」と苦笑すると、友人ははてと首を傾げ続けて尋ねてくる。
「まるで経験したような言い草ですな。……もしや」
その後の言葉は口にしなかったが、まぁ友人が言いたいことは察しが付く。
それに対し俺ははぐらかすように「どうだかな」と大袈裟に首を振ってみせる。
「まぁいいですが。ところで慧殿、昨日の『青マジ』は見ましたかの!?」
独りでに納得したかと思いきや、友人は興奮気味に机に身を乗り出し目を見開いてそんなことを尋ねてきた。
「あぁ、見たぞ。なかなか良かったな」
「そうですな! 特にヒロインの──」
そんな普段と変わらない、くだらない会話をしながら思う。
毎朝起こしに来る幼馴染みも、上から目線な美人先輩も、物静かな後輩もどうでもいい。実際にいたらただ迷惑極まりないだけだ。
だから俺は思う。妹だけいればそれでいい、現実にそんな面倒な青春ラブコメなんて──必要ない。
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