第6話 捕縛
私はいよいよ、人魚の内臓器官を細かく検分する段階に入っていた。
が、そこに島の警官どもが踏み込んできたのである。雇った三人のガイドの親たちも一緒だったようだ。私は、ガイドたちが、いちいち自分の親に、私との関係を話していたということに腹がたった。
警官どもは、私の寝台で腹を開かれている人魚に駆け寄ると、脈をとったりしている。死んでいるのは明らかなのに。もう一人の警官は、食いちぎられたガイドの下半身に、シーツを被せている。身元確認でもさせるつもりだったのだろうか。
写真が何枚も取られた。拳銃が私を狙っている。私はガイドの死について、夜の海、珊瑚の産卵を観察している途中で、誤って船から落ち、そこに鮫が来たのだった。と説明した。が、警官は私を睨みつけると、手錠を嵌めたのである。
容疑は、誘拐、暴行、殺人、死体遺棄。であった。
四人を猟奇的な方法で殺害した残忍な異常犯だと、発表されてしまったのである。
私は何かの間違いだと思った。ガイドについては、研究に協力してくれたのは自発的なことであり、事故ではなく、故殺だという証拠は何一つないのであるし、被害者の一人とされているのは、人魚なのである。
私は現場の写真を指さしてこう主張した。
「この歯型を見なさい。これはこのオンナの歯型と一致するはずだ。また、このオンナの性器からは、この少年の精液が検出されるだろう。私はその場に居合わせただけである。
私は研究のために少年たちとは別のボートに乗っていたのだし、彼らが恋人を連れてくるかもしれないなどと、考えもしなかった。私は海から、この2つの遺体を引き上げただけなのだ」と。
人魚、などとは言えなかった。そんなことを言えば、きっと私は狂人扱いされるだろうと思ったからだ。こうした配慮をできる点でも、私が精神に異常を来しているなどという警察の見解は、間違っているのだということは、お分かりいただけるであろう。
警察はどうしても私を犯人にしたがっているのだ。あのガイドに残る歯型は私の歯型であり、人魚から検出された精液は私のものだという。しかも人魚は銃で撃たれており、その銃は私の研究室から発見されたというのである。こんな馬鹿な話はないのだ。
しかも、十二年前にも、私はオンナを一人殺したという疑いをかけられているというではないか。
人魚のしわざなのだ。全ては人魚のしたことである。そして、人魚がいかに人間に近いからといって、人魚に人権を認める法律はまだないはずである。
私は方針を転換した。オンナが人魚であると、真正面から主張することに決めたのである。
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