ハシビロコウ

ハシビロコウ

第1話 ハシビロコウ

 毎夜、仕事なんてしない。

 それらしく仕事をしているふりをするだ

けだ。

 夜仕様の化粧をして、膝丈のドレスを着ればストッキングを履かない素人を軽蔑して、ロングドレスを着れば隠れてしまっても綺麗なハイヒールを履いて、品がいい小ぶりのアクセサリーを着けて、痛まない程度に髪を整える。

 ツケマやカラコンを装着していれば客が勝手に年齢を錯覚してくれると豪語する嬢がいるが、私はそうは思わない。

 ハゲや、キラキラ白髪や、シミや、額の皺や、烏の足跡や、ほうれい線や、二重顎や、首の太い皺や、ふり袖(二の腕)や、節くれだった指や、樽のような腰まわりや、肘や膝まわりの波紋のような皺や、せむしや、全身の関節の可動域や……。

 嬢を注視しない客はあいさつ代わりに、

「若く見えますね!綺麗ですね!」

などと軽口を叩くが、所詮、オバサンはオバさんだ。

 だから、私は私の独断と偏見で、ごまかさずに悲壮感が出ない程度に着かざるのをよしとしている。

 指名がない日は適当に喋って、適当に笑って、適当に相づちを打って、適当にドリンク(有料)をねだって、適当に場内指名(フリー客から取る指名)を取って、適当に延長を促して……店の収益につながる働きをする。

 それでも、指名がある日はきちんと仕事する。

 自己収益につながるとわかれば頭も気も使う。

 高い銘柄の酒を飲もう。

 おいしい鮨を食べよう。

 相手はショボいフリー客ではないのだ。

 金を落としてくれたら落としてくれただけ、いやらしいまでに接客の質を上げていく。

 熟女という私の価値を高く見つもってくれるお客様にだけ、接客の真髄を見せて差しあげる。


 私はハシビロコウだ。

 夜行性で単独行動と魚を好む。

 獲物がくるまでじっとして動かない。

 カバの助けがなくても魚は獲れる。

 空腹じゃなくても、大物がくれば動くだろう。

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