第5話 せめて心にはロリを抱いて

その1 魔女の空中戦

「箒を掴むより私の身体にしがみみついた方が気持ちいいよ。何なら胸を揉むくらいは許してあ・げ・る」


「だが断る」

 ただでさえ空中で落ちるのが怖い状態。

 そんな危ない事をする気にはならない。


「それよりこの跳んでいるの、他の人に見られて問題になったりしないか?」

「魔女以外には見えないから大丈夫だよ、ってまずい。追撃チェイサーだ」

 学校各所から三つほど何かが浮かんだのが見えた。

 そのままこちらに迫ってくる。


「あれは?」

「蒼生を捉えるために出てきたんでしょ。大丈夫、このNR750は並の箒じゃないから」

 うおおっ。

 一気に加速したぞ。


「冗談別にして私にしがみついた方が安全だよ」

「失礼します」

 本当にそうらしいので彼女に腕を回す。

 思った以上に細い。

 その割に柔らかい感触。


「うん、この温かさがイイ!そんな訳で一気に後続を振り切るよー」

 壮絶な加速感が俺を襲う。

 知佳に回した左手を右手でぎゅっと握りしめる。

 そうでもしないと振り飛ばされそうな感じだ。

 感触を楽しむ余裕など……少ししかない!


「うーん、あと一機振り切れない。機種はZXR、加速力と最高速は互角以上か。仕方無い、攻撃に移るか」

 そんな台詞と同時に箒は更に更に加速する。

 新金井街道を一気に北上、左手の大きいマンションへ向けてふっと機首を振った。

 目の前に迫る巨大なマンション


「ぶ、ぶつかるー」

 やばいこれ俺死んだ!

 そう思った俺とは逆に知佳はにやりと笑う。

「あのマンションを縦のカーブとして使うよ」


 マンションの手前でちょっと下降してすぐ上昇。

 上下反対に見える視界の斜め前方、黒い影が見えた。


「エア・ブラスト!」

 下に空が見える姿勢で知佳がそう呟く。

 右正面に見えた影がふらっとふらつくのが見えた。

 でもその姿は一気に後へと消える。

 そして箒もぐるっと回って水平に。


「うん、なかなか手強いマシンだった。でも乗り手がまだまだだね」

 どういう世界だよ!

 あと質問がひとつ。

「あの状態でバランス失ったら死なないか?」

「魔女は頑丈だからね、あれじゃ怪我ひとつないよ。衝撃はそれなりに食らうから当分動けないとは思うけれど」

 魔女恐るべし。


「それじゃ密室でイチャイチャしに行くよ」

 えっ。


「説明じゃなかったのか」

「そうとも言う」

 どっちなんだ!


「翠が先行して場所を取っている筈だけれどね、カラオケ」

 そういう事なのか。

 そうなっているのか。

 もう何が何だかよくわからない。

 どうなっているんだこの世界は!

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